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自治体BOSAIまちづくり伝道師。長年にわたり、毎年発刊の『防災+手帳』の作成に関わるなど、災害への備えや命を守る行動、災害に強いまちづくりへの理解も深い。

現在、80代の母親と同居するリアル「オヤノコト」世代。聴こえの衰えや唐突に前後する会話に母親の“年齢”を実感しつつも「まだまだ元気そうだし…」と、趣味に没頭する日々を送りながら、食べるための「歯」・元気で過ごすための「足」の健康維持に奮闘中。
今、多くの自治体が災害後、自宅で安全を確保できる場合には、避難所に行かずに自宅で避難生活を送る「在宅避難」を選択することを推奨しています。特に体力が低下する高齢者は、可能であれば在宅避難を選択したほうが、メリットが大きいともいわれています。
そこで今回は「在宅避難とは何か」といった基本情報から、在宅避難を選択するために必要な条件、準備すべきものまで、長く防災に関わる出版物の制作・監修に関わり、災害に強いまちづくりを推進する活動にも力を注いでいるねじまきさんといっしょに考えていきます。

以前の記事でもご紹介しましたが、上の図は、大きな地震が発生した時に、まずはどのように行動すべきかをまとめたもの。大きな揺れが収まった後、このまま自宅にいていいのか、それとも避難場所に移動すべきなのか、ぜひ迷った時に参考にしていただければと思います。
「とはいえ、離れて暮らす親に、その判断を一任することに不安を感じる人も多いと思います。それならば、大きな災害が起きた時には周りの状況に関わらず『まずは広域避難場所に行く』ことを家族の約束とし、これ以上の大きな被害がでることはなさそうだ……とわかるまでは避難場所に身を寄せるようにしましょう。激しい雨や大きな揺れが落ち着いてから、自宅や周辺の状況に合わせて、避難所に入るのか、それとも自宅にとどまるのかを決めるようにすれば逃げ遅れや判断ミスを防ぐこともできるはずです」(ねじまきさん/以下同)

では、激しい雨や大きな揺れが収まった後は、どんな生活が待っているのでしょうか。
想定外の災害が発生した……となると、多くの人が「まずは避難所へ!」と考えると思います。もちろん自宅が倒壊した、建物の浸水や土砂災害による被害を受け「住めるような状態ではない」のであれば、避難所での生活を選択すべきです。しかし、現状大きな被害がない、今後も「自宅で安全に過ごせる」と判断できる場合は、自宅で避難生活を送る「在宅避難」も選択肢の一つとなります。
「特に最近は首都圏を中心に在宅避難への備えを呼びかける自治体も増えています。その理由は、多くの人が一斉に避難所に殺到すると、避難所の定員を超え、入りたくても避難所に入れない人が出る恐れがあるから。各自治体が指定している避難所の定員は『誰もが』『必ず』入れるほど余裕があるわけではないのです」
しかもそれは、東京や大阪といった大都市だけの問題ではありません。

上の表は、令和7年4月時点での避難所の収容能力に関する静岡市の試算をまとめたもの。それによると静岡市で想定される避難所避難者数は18万2,543人。ところが静岡県の基準で算出した現状の指定避難所の収容可能人数は10万2,368人。つまり約8万人分の収容能力が不足する計算となっています。
また、被災者が尊厳を保ちながら生活できるよう、必要な生活空間や環境を考慮した国際的な人道支援の基準である「スフィア基準」で算定した場合、収容可能人数はさらに少なくなり8万8,214人。つまり、実に約9万4,000人が「避難所に行っても入れない」可能性があるのです。

「それに前回の記事でもお伝えしましたが、避難所での慣れない生活は高齢になった親御さんにとって、体力的にも精神的にも負担が大きくなりますし、同じ空間に大勢の人が集まることで感染症への不安もあります。万が一の災害に備えて、避難のための準備だけでなく『安全が確保できるなら自宅で過ごす』ための準備もしておくといいですね」
“安全が確保できるなら”在宅避難を選択したほうが、高齢となった親にはメリットが大きい……といわれても、親の住まいや自宅で安心・安全に在宅避難ができるかどうか、どのように判断すればいいかわからないという方もいらっしゃると思います。そこで、その判断ポイントについて、ねじまきさんに教えていただきました。
下の表は、建てられた時期別に建物の「耐震性」についてまとめたもの。地震が多い日本では、世界でもかなり厳しい耐震基準を設けられていますが、その建物が「いつ建てられたものか」によってその基準が異なります。まずは実家や自宅の建物はいつ建てられたものかを確認し、耐震診断や劣化の有無などをチェックしておきましょう。

「特に1981年5月よりも前に建てられた住宅や建築物は『震度5強程度の揺れに対して倒壊・崩壊しない』という耐震基準に合わせて建てられています。そのため、近年、頻発している震度6弱以上の揺れに対する備えが弱い可能性も……。ご実家やご自宅の建物が該当する場合は、一度、専門家による耐震診断を受けてみてはいかがでしょうか」
強い揺れに建物が耐えられたとしても、家の中、すべての部屋で家具が倒れ「足の踏み場もない」という状態になってしまったら、そこでの避難生活は難しくなってしまいます。少なくとも大きな家具や家電(テレビなど)には転倒防止の器具がついているか、モノが部屋に溢れていないか、離れて暮らす親の住まいを一度確認し、不安を感じる部分があれば、いっしょに対策を考えていきましょう。
災害後は、電気やガス、水道といったライフラインが止まり、復旧に時間がかかる可能性もあります。また自治体などによる支援も「災害発生後、すぐに」開始するのは難しいのが現状です。そのためライフラインが止まった後、少なくとも数日間は過ごせるだけの備えの有無も、在宅避難ができるか、できないかの判断基準となります。

ライトやガスボンベ、ラジオ、携帯用トイレといった非常時に役立つアイテムの準備ができていますか? また普段から水や食料品は少し多めにストックしておく習慣をつけておくと、非常時にも「いつもとあまり変わらない」食事を摂ることができます。
いちばん大切なのは、災害発生後に離れて暮らす親御さんがおひとり、もしくはご夫婦ふたり『だけ』で、自宅で安全に生活できるかどうか。親御さん自身はもちろん、ご家族が少しでも不安を感じるのであれば、無理に在宅避難を選択する必要はありません。建物や室内の安全性はもちろん、普段の暮らしの様子は備えについても「オヤノコト」世代の皆さんが確認、判断し、いっしょに避難生活の準備・計画をするようにしてください。
「ただし、大地震の後、被災した建物の玄関に、「立ち入り禁止」の貼り紙が貼られた場合は要注意! これは二次災害を防ぐために、自治体から派遣された応急危険判定士が建物の倒壊などの危険性を外観から調査し、赤・黄・緑の3色で危険度を表示したものです。もし自宅の玄関にこのステッカーが貼られていたら、すぐに自治体へ連絡して、家の中に入って大丈夫かを確認するようにしましょう。見た目だけで『大丈夫だろう』と自己判断し、在宅避難を開始する……というのは絶対にやめてくださいね」
家の耐震性や周辺の安全性を確認した結果、在宅避難できる可能性が高い。また親も「できる限り住み慣れた我が家で過ごしたい」と希望しているようであれば、そのために必要な「備え」について考えていきましょう。ここでは特に考えておきたい4つの準備・備えについて解説します。ぜひ親子で、家族で実践してみてください。
まずは、大きな揺れでタンスや食器棚、テレビなどの家具や家電が倒れないよう補強しましょう。これらが倒れると大きなケガの要因になるだけでなく、“居住スペース”を失うことにもなるため、建物が無事だったとしても在宅避難は難しくなりますし、その後の片付けにもかなりの時間と労力が必要になってしまいます。
また、できるかぎり寝室には大きな家具を置かない、どうしても置かなければいけない場合は、頭や体に倒れてくる場所や、入口や動線をふさいでしまう可能性がないかを確認し、必要に応じて配置換えをしておきましょう。


「家具を固定して転倒を防ぐことはもちろんですが、食器棚などは激しい揺れで扉が開き、中の食器が落ちて割れ、ケガの元となることも考えられます。食器の揺れや横ずれを防止する滑り止めシートを活用する、扉に金具をつけて“モノが飛び出さない・落ちない”ようにするなどの対策をしておくと安心です」

親の住まいを見渡した時……もう古くなって使わない道具や家電、サイズや趣味が変わってしまって着ることのない洋服などが山積みになっていませんか? 年齢を重ねるごとに思い出も増え、どんなものでも「取っておきたい!」となりがちですが、そうして増え続けたモノが災害時には被害を大きくし、在宅避難の妨げとなる可能性もあるのです。

「床にモノが置きっぱなしになっていると災害時に避難路をふさいでしまう恐れがありますし、家具の上に荷物を積んでしまうと重心が高くなるため、家具そのものが倒れやすくなり大きなケガにつなげる恐れもあります。ぜひ親御さんと一緒に不要品がないかを見直しながら部屋を整理整頓し、地震の時に安全に動ける空間を作るようにしましょう」
地震や大雨災害に見舞われた時、長期間、水道や電気、ガスの供給がストップすることも予想されます。その時、親の住まいや自宅に水やライト、食品などの「備え」がなかったら、たとえ家自体に損壊や被害がなかったとしても、在宅で避難生活を続けるのは難しくなってしまいます。
その中でも特に優先して準備しておきたいのが「非常用トイレ」。災害後は断水が発生する可能性も高いうえ、浄化槽や下水の排水管が破損していることも考えられます。トイレが使用できずガマンすることで体調不良となるケースは珍しくありません。最低でも1人、1日5回×3日分は用意しておくようにしましょう。大げさではなく、非常用トイレの備えが充分かどうかで、在宅避難の安心度・質が大きく変わります。

「断水していても、バケツなどで水を流せばトイレは使える……と思っている方もいらっしゃいますが、浄化槽や下水の排水管が破損していた場合、漏水や逆流によって家そのものに復旧が難しいほどのダメージを与えることも考えられます。また、集合住宅にお住まいの場合、階下への漏水によって大きなトラブルになるケースも。災害時は安心して使えるとわかるまでは『トイレは流さない』を徹底してください」
災害後は物流がストップし、食材が手に入りにくくなることが考えられます。そのため、災害に備えてある程度の食品を「備蓄」しておくことが欠かせません。今は、長期保存が可能な非常食・保存食も充実し、温めるだけ、水を入れるだけで食べられるものがたくさん販売されていますので、お好みの味を準備しておきましょう。

ただ、高齢になると食が細くなるうえ、災害時は環境の変化やストレスからさらに食事量が減ってしまうケースも少なくありません。また、いざという時のために備えておいた“非常食”が「思ったよりも硬い」「味が濃くて受け付けられない」など、食べたくても食べられないといった状況に陥ってしまうことも考えられます。
「親のために食材などを備えるのであれば、長期保存が可能な非常食ばかりをたくさん用意するのではなく、『ローリングストック』(下記コラム参照)によって、何度も食べたことがある、食べ慣れている食事が常に多めにストックされている状態にしておくほうが理想的。体力・気力を維持するためにも、災害時に“いつもとあまり変わらない食事”を摂るのは非常に大切なこと。不安やストレスの軽減にもつながるはずです」

普段食べている食品を少し多めに購入し、賞味期限を考えて古いものから消費していき、消費したらその分を買い足す方法。それによって常に一定の量の食材が家にストックされている状態を作ることができ、災害時、食料品の入手が難しい状況に陥った場合も慌てることなく、いつもの食事を摂ることができます。
レトルト食品や、インスタントラーメンなど、「普段も食べるけど、ある程度の保存も可能」な食料品を中心に、家での備蓄、始めてみませんか?
・・・いかがでしょうか。
避難所にはさまざまな支援や情報が集まりやすく「孤立しない」という安心感はある一方で、高齢になった親にとっては、大勢の人が集まる慣れない環境によるストレス、いつもと違う生活リズムに体調を崩しがちになるなど、デメリットが多いのも事実。実際、今は「避難所には行きたくない」と抵抗感を示す高齢者も増えているのだとか。
災害に見舞われた後も、親が出来る限りプライバシーが守られた“我が家”でストレスなく過ごすためには、日々の備え、準備が欠かせません。とはいえ、耐震診断の手配や室内の片付けなどは、高齢になるとなかなか行動に移せないもの。帰省時などを上手に利用して、ぜひ親子で、家族みんなで、取り組んでみてください。
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