きこえが衰えた高齢の親のために補聴器を購入したのに「雑音がうるさい」「つけ外しが面倒」と使用を敬遠されてしまったとの声を聞きます。決して安価なものではないだけに、補聴器選びは失敗も後悔もしたくない――だからこそ知っておきたい補聴器選びのポイント、注意点を教えていただきました。

●お話をお聞きした人
WSオーディオロジージャパン株式会社　成井あい子さん。 同社が運営する「難聴と補聴器のポータルサイト、きこえナビ」運営ご担当。 補聴器販売店のマーケティングを5年間、補聴器メーカーのマーケティングを6年間ご担当。高齢の親のため、私たち「オヤノコト」世代のために、よりよいきこえと補聴器についての情報を発信されています。

補聴器を使うと「うるさい！」と感じてしまう人が多いのはなぜ？

「雑音がうるさくて不快――というのは、補聴器の使用を途中で辞めてしまう理由としても多いと思います」

と話す成井さん。例えばエアコンのスイッチを入れた時、私たちの耳には風が「サーッ」と噴き出してくる音が聞こえてきます。でも、きこえが衰えた高齢の親などは、そもそもエアコンのわずかな風の音が聞こえなくなった状態で長い時間を過ごしてきました。そのため、補聴器を装着し、改めてそうした音が入ってくるようになると「この音は何だ？」と違和感をおぼえ、過剰に反応してしまうことも。そのため、実際にはそんなに大きな音でなくても「気になって仕方がない」という状態となり、「うるさい！」と我慢できなくなってしまうのです。

今は「補聴器」自体に雑音を抑制する機能が備わっている！

そうした声に応えるため、今、多くの補聴器には、取り込んだ音を「声」と「生活環境音」に分け、この生活環境音だけを自動で小さくする『雑音抑制』の機能が搭載されています。

「かつての補聴器は、新聞をめくろうとするときの紙の音、食器を洗う時のカチャカチャという音が『うわっ！』と驚くほど大きく入ってくる…ということもあったようですが、今は、 “大きくする必要のない雑音”を判断し、雑音は大きく増幅しないといった処理をして届けてくれます」（成井さん／以下同）

この『雑音抑制』の機能は、補聴器のメーカーや機種によって、その性能や「きこえ方」も大きく異なり、「あまり効果を感じないな」と思うものもあれば「まわりのいろんな音が聞こえてはくるけれど、気にならないくらい快適になった」と驚くものまであるのだとか。そのため基本的には一度補聴器の音を自分の聞こえ方に合わせてみて、自分のきこえの状態に一番合う、違和感がないものを選ぶことが重要となります。

「補聴器が『雑音』と判断する音の中には、例えば車が近づいてくる音や、後ろからくる自転車の音など生活するうえで<必要な音>、<聞くべき音>があります。それをすべて消してしまうと、逆に外出されるときに危険が生じることも考えられますので、完全に雑音をシャットダウンする設定を選択することはありません。誰でも雑音はある程度入ってくるようにしています。

参考:『きこえナビ』補聴器の「自然な音」とは？違和感のない聞こえを目指して(外部リンクへ飛びます)

突発的に入る「大きな音」にも対応できる機能がついた補聴器が登場！

さらに近年は、何かがぶつかった、壊れた音など、不意に入ってくる「大きな音」を瞬時に判断し、音量を抑える・やわらかく処理して耳に届けるという『突発音抑制』という機能を搭載しているものも登場しているのだとか。

「例えば、金属製のものがぶつかり合う『カン！』といった音を、そのまま話し声と同じレベルで大きくしてしまうと、かなり大きい音になり、耳が痛くなるレベルになってしまいます。しかし今は、そういう突発的な音が入ってきたときに補聴器が即時に判断し、耳に刺さるような音にならないよう処理したうえで、ほとんどタイムロスなく耳に届けてくれる…そこまで進化しているんですよ」

参考:『きこえナビ』補聴器と風の関係：「風雑音」を抑制する機能とは？屋外でも安心して使えます(外部リンクへ飛びます)

ひと昔前までは「補聴器＝雑音がひどい」という印象が多く、実際、補聴器の購入を検討している我が家の80代の母も、まだ軽度難聴と診断されていた頃に（現在は中等度～高度難聴になっています）耳鼻科医から「この程度の難聴で補聴器なんて…うるさくて付けていられないと思うよ」といわれた経験があります。

でも今は気になる雑音、そして突発的に発生する大きな音まで自動で判断し、「聞こえやすい音」にして届けてくれる――やっぱり私たちもこれまでの補聴器へのイメージ・認識を変え、補聴器の使用を「まだ早い」ではなく「なるべく早く」検討すべきだといえそうです。

たぶん…補聴器は思うよりもずっと「小さい」！

先日、取材で補聴器専門店「ブルーム」にお伺いし、実際に試聴しながら最新の補聴器の性能についてご説明を受けました。

参考) 【オヤノコト.net】高齢者の「きこえ」のお悩みとイライラを解消！補聴器専門店「ブルーム」を訪問してわかった自分に合った補聴器選びの“リアル”とは？

その際に感じたのは「補聴器って…思った以上に小さい！」ということ。「装着してもめだたないようにする」ことを考えたら、小さくなるのは当然のことなのですが…これを、80歳を超えた我が家の母が使いこなすことができるのかと不安になった記憶があります。

「実は、私たちが補聴器を『できる限り早く使い始めてください』と呼び掛けているのは、そういう面もあるからなのです。やはりお年を召されて、視力も衰え、手元の細かい作業が苦手になってきたときにあんなに小さい、しかも初めて使う機械をスムーズに、しかも毎日使いこなしてくださいというのは…正直、難しいですよね」

実際、購入したものの「小さくて自分の耳に入れるのも一苦労」「電池交換がうまくできない」といった理由で使用を辞めてしまった――というケースも多く見られるのだとか。

「そのため、ご高齢の方には、あえて耳あなに入れるタイプ(耳あな型)のサイズの大きい補聴器をお勧めすることも少なくありません。またご様子を拝見して、ご自身で電池交換をすることが難しそうだと感じる場合は充電タイプのものを…など、ご利用になる方が無理なく使いこなせるものを選択し、ご提案するようにしています」

補聴器専門店での「無料お試し」を最大限に活用しよう！

今はひとことで「補聴器」といっても「耳かけ型」「耳あな型」「RIC型」と形状やサイズ、色もさまざまに用意されています。その中からスムーズに使いこなせるか、ストレスなくきこえるかを確認し、「自分に本当にぴったり」の一台を選ぶのは簡単なことではありません。これはあくまでも個人的な意見ですが――ネットや雑誌に書かれている機能だけを読んで選ぶというのは、後悔にしかつながらないのかなと。

「補聴器専門店の多くは2週間…など、お試し期間を設けているところがほとんどです。ぜひ、お店に行っていくつもの補聴器を試して、その中で一番『自分に合っている』と思うものを選ぶようにしてください。遠慮せずにいろんな機種を試してもらうのが一番。結局、それが一番“後悔しない・失敗しない”補聴器選びへの近道になるはずです」

参考：『きこえナビ』補聴器は無料でお試しできる？購入前に体験できる仕組みとメリット(外部サイトに飛びます)

(取材：2025年11月)