40歳を過ぎたらオヤノコト

公開日:更新日:

第4回:相談者60代 対象者(父親)90代

施設見学、契約、自宅の片付けと売却、引っ越しまで……遠距離の往復と仕事とはどう両立させたのか(第3話)

記事の発言・監修・ライター
坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

神田文明さん(仮名・62)は、愛知県で一人暮らしをする父親(90)の施設探しを「オヤノコト」相談室に相談。サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を父親とともに数か所見学したところで、「いいね」と言っていた施設に空きが出て、そこを契約することにしました。父親が趣味の絵を続けられそうな環境の良さが決め手でした。月額予算20万円のうち年金で不足する分は、自宅と土地を売却した資金を充てることにしたのです。

(第2話はこちら)

半年で東京と愛知を15往復

神田文明さん(仮名・62)は会社員です。仕事をしながら東京と愛知を往復し、施設選びや見学、自宅の売却手続きなどをどのように進めていったのでしょうか。

「サ高住の見学をしていた3か月間は月に2回、サ高住の契約をした月も2回は帰省しました。契約後、サ高住への住み替え手続きや自宅の整理、売却手続きで2か月間はほぼ毎週帰省していました」

この間、東京と愛知の往復はおよそ15回に及びました。かかった交通費は、新幹線だけで約30万円に上っています。

仕事に支障は出なかったのでしょうか。

父親は「オヤノコト」相談室のすすめで、要介護認定を受け、要支援1と認定されていたので、介護休業制度や介護休暇制度を利用することもできました(※)。ただし介護休暇は、年に5日までしか取得できないなので今回の神田さんの場合はこれだけでは足りなかったでしょう。介護休暇や介護休業制度は基本的には無給なうえ、申請するのも面倒だと思った神田さんが利用したのは、有給休暇でした。これまで利用したことがほとんどなかったので、たっぷりたまっていたと笑います。

「見学や引っ越しなどは週末でもできたのですが、混んでいて平日の方がスムーズですし、引っ越し料金も安かったんです。その分、土日はたまっていた仕事を持ち帰って片づけました」

職場には有給休暇を使う際に、介護の事情を伝えたと言います。

「それまで休みを取ったことがほとんどなかったんです。だから有給を申請する時点で、介護のことを話しました。同僚は『大変だね』と理解してくれました」※介護認定の有無は介護休暇、介護休業の取得の必須条件ではありません。

施設について知らないことばかり。勉強しながら施設を探した

施設選びから見学、契約までとんとん拍子に進んだだけに、苦労もありました。

「サ高住と有料老人ホームはどう違うのか、費用はどれくらいかかるのかなど知らないことばかりだったで、『オヤノコト』相談室に聞いたり本を読んだりしてとにかく勉強しました。これからもまだ勉強することはたくさんあります」

学ぶなかで、多くのサ高住は看取り対応までしておらず、終末期まで住み続けることが難しいところも少なくないと知ったという神田さん。終の棲家にするのなら有料老人ホームの方がいいのではないかと迷ったこともありましたが、父親が入ることになったサ高住は医療法人が運営しているのが安心材料だと考えています。

「この法人は訪問看護ステーションも運営しているので、病気になってもそこを利用できるのは安心です。ギリギリまで住み続けられるのではないかと考えています」

判断能力があるうちに自宅の売却が済んだことにホッとしつつも、資産管理は依然課題です。サ高住に移ったとき父親から預金通帳を託されており、今後は家族信託についても勉強したいと考えています。

そしてもうひとつ。父親がサ高住に移って何より安堵したことがあります。それが、世間を震撼させている“闇バイト”による連続強盗事件。一人暮らしの高齢者が狙われているので、自宅に住んでいたら父親はもちろん、離れて暮らす神田さんもどれほど不安だったことか。防犯対策に頭を悩ませている子世代からすると、神田さんの安堵が痛いほどわかります。

サ高住に入居した父親は、自宅にいたときと変わらずマイペースで暮らしているようです。

「スケッチはこれからですが、施設周辺を散歩したり運動したりしていると言っていました。ウォーキング用の『ステッキ』(あんしん2本杖)を早速プレゼントしました」

これからも毎月様子を見に帰省したいと考えています。懸案事項が片付いた今、穏やかに親子の時間が持てるといいですね。

オヤノコトネット