40歳を過ぎたらオヤノコト

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第4回:ご相談者60代 対象者(父親)90代

とんとん拍子に進んだ父親の終の棲家選びだったが、年金では費用が足りない。出した答えは?(第2話)

記事の発言・監修・ライター
坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

神田文明さん(仮名・62)は、愛知県で一人暮らしをする父親(90)が屋根のリフォーム詐欺に遭ったことをきっかけに、一人暮らしはもう潮時だと考え、施設を探しはじめることにしました。遠距離で親の住まい探しは時間・金銭的にも多くの苦労があったそうです。

(第1話はこちら)

父親と一緒に見学。好印象のサ高住に空きが出た

神田文明さん(仮名・62)が父親の施設探しを検討しはじめたところ、タイミングよく、神田さんが勤務する会社の社員向けに「オヤノコト」相談室が主催する講演会があり、早速施設選びについて相談することにしました。

父親は介護が必要ないので、施設の選択肢としてはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)か有料老人ホームに絞られます。2024年春には、「オヤノコト」相談室から紹介されたサ高住数か所を父親と一緒に見学しました。

「見学したなかでも『ここ、いいよね』と言っていたサ高住が満室だったので、次は有料老人ホームを見学しようとしていたところで、そのサ高住から『空きが出ました』という連絡があり、そこに決めることにしました」

見学をはじめて3か月後、7月のことでした。

「ここ、いいよね」という好感触の要因はどこにあったのでしょうか。神田さんは、その筆頭が環境だと言います。

「自宅は市の中心地からバスで1時間ほど離れている静かな住宅地です。そのサ高住は郊外にあり、山や川がある自然豊かな環境でした。絵が趣味の父にとって、周辺を散歩がてら歩けば、絵の題材がたくさんあって趣味も楽しんで続けられると思いました」

父親が趣味を続けていければ、施設でも自宅にいるころと同じように父親らしく暮らしていくことができるでしょう。それが大きな魅力だったのです。

古くなった自宅を売却して施設費用に充てる

屋根のリフォーム詐欺に遭ったとき、父親の蓄えは少なくなっていたと明かしていましたが、サ高住にかかる費用についてはどう考えていたのでしょうか。

「予算は食費や生活サービス費なども含めて月の総額が20万円くらいと考えていました。父の年金は月10万円程度です。不足する10万円は自宅と土地を売却して、その資金に充てることにしました」

古くなっていた自宅の解体や売却は「オヤノコト」相談室にお任せいただくことになりました。

「自宅は古く、ほぼ土地だけの価値で評価額は1600万円でした。そこから解体費用などを差し引くと1200万円が手元に残りました。人生100年時代として今後かかる費用をシミュレーションしているものの、介護が必要になったり入院したりするとこれでは足りなくなる可能性はあります。そうなれば私が補填することも考えています」

解体するにしても、自宅の片付けは必要です。さぞかし大変だったのではないでしょうか。ところが、神田さんからは意外なくらいあっさりとした答えが返ってきました。

「残したのは母親の位牌と分骨して父親が手元供養していたお骨くらい。あとはサ高住に持ち込む冷蔵庫や電子レンジ、布団や小さな家具、衣類以外はすべて処分しました。それほど愛着のあるモノもなく、悩むことはほぼありませんでした。高齢男性の一人暮らしなんてそんなものです(笑)」

そうは言っても、土地の売却や入居にともなう手続きや片付けが簡単なはずはありません。その経緯はというと……。

「2024年春から施設見学を開始。並行して自宅や土地の売却先を探しはじめました。5月に売却先が見つかり、売買契約を締結。年内に土地の引き渡しを契約しました。住み替えるサ高住が決まったのが7月。9月に引っ越しして入居しました。そして10月上旬には自宅を解体し、同月末に土地の移転登記を完了しました」と、息つく間もない忙しさです。仕事をしながら東京と愛知を往復し、神田さん一人でこの煩雑な手続きを一つひとつこなしていくのはどんなに大変だったことか。想像するだけで疲労困憊しました。次回はその両立の秘訣に迫ります。

(第3話に続きます)

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