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教えて!子どものときのとっておきの絵本と想い出キャンペーンを終えて・・・子どもの本のみせ ナルニア国店長 川辺陽子さんに聞く「オトナ親子®」と絵本

「オヤノコト」世代と同い年の絵本たち

オヤノコト.netで募集した「教えて! 子どものときのとっておきの絵本と想い出」にはたくさんの絵本とともにそれにまつわる親との大切な想い出が寄せられました。今回の企画のご協力をいただいた、教文館 子どもの本のみせ ナルニア国店長の川辺陽子さんに、みなさんに寄せていただいたコメントなどについてお話を伺いました。

長く読み継がれる児童書を揃えたナルニア国

ナルニア国は、1885年創業の書店教文館の9階にある児童書の専門店です。時代が変わっても長く読み継がれているロングセラー作品を中心に約1万5000冊の絵本や児童書を揃えています。また原画展や講演会、子どものためのおはなし会も開催。9月は『わたしのワンピース』(作・絵:にしまきかやこ、こぐま社)の刊行55周年、10月は『ねないこだれだ』(作・絵:せなけいこ、福音館書店)の刊行55周年を記念してフェアを行いました。

「ナルニア国」店長の川辺陽子さん

当店にいらっしゃるお客さまの年齢は幅広く、週末は赤ちゃん連れから高齢の方まで、ご家族そろって来店されることも少なくありません。平日は銀座という立地から、大人の方が多いですね。私は当店に勤務して25年になりますが、勤務しはじめたころは男性がお一人で来店されることはほとんどありませんでしたが、今は珍しくありません。プレゼントとしてだけでなく、自分が好きな絵本を買う方もいらっしゃり、絵本が多様な方に浸透していると感じています。

親子のコミュニケーションが絵本の価値を決める

今回の「教えて! 子どものときのとっておきの絵本と想い出」キャンペーンでは、当店にとっても大切な絵本がたくさん挙げられていました。また皆さんの熱のこもった言葉から、絵本が親との幸せな記憶でつながっているのが伝わってきました。そして今度は自分が親になり、子どもに読んでいる――まさに世代を越えてつながっているロングセラーの絵本を体現しています。

「オヤノコト」世代と同い年の絵本たち。
『ぐりとぐら』と『ちいさなうさこちゃん』は60周年!!
『わたしのワンピース』と『はらぺこあおむし』『ねないこだれだ』は55周年、『ねずみくんのチョッキ』50周年。親子3世代で読み続けられているロングセラー

親子のコミュニケーションまで含めて、その絵本をどんな場面でどう読んだかが、その方にとっての絵本の価値を決めているのだと感じます。

草や花の匂いを感じたり、食べ物が登場する本では、実際に食べたり作ったり……皆さんの中で絵本の世界が生き生きと立ち上がっていました。「出てくるドーナツを食べてみたくなり、母と買いに行った」「母とクッキーを作った」「不器用な母が一生懸命ホットケーキを作る過程を絵本の通りに再現してくれた」「よもぎだんごをワクワクしながら作った」「料理を一つずつ母と再現して作った。どうしても本と同じ具材と味付けで食べたくて、休みの日に母と食材を調達しに行くところから楽しかった」「作品の中に出てくるお弁当を母が作ってくれて一緒に公園で食べた」などたくさんの声がありました。さらに、その物語を読んでくれた親の声を思い出したという方もいて、絵本の物語が五感を通して実体験になったのだと思います。

お母さまが絵本のセリフを「歌のように歌っていた」というコメントもありました。絵本は読む人によって抑揚やリズムが違ってきます。

実は、私は親に絵本を読んでもらった記憶がありませんでした。ところが大人になって絵本の読み聞かせの勉強会をするなかで、先輩が『ちいさなうさこちゃん』(作:ディック・ブルーナ、訳:いしいももこ、福音館書店)を読んだとき、「この読み方は違う!」という思いが沸き上がりました。母が読んでくれた抑揚と違っていたので、違和感があったのでしょう。記憶にはありませんでしたが、母は確かに『ちいさなうさこちゃん』を読んでくれていたのです。

絵本が人と人をつなぐ

来店されたお客さまの多くが、並んでいる絵本を見て、読んで「懐かしい!」という声を上げられます。それを聞くと、私たちもうれしくなります。

『ねないこだれだ』を見て、「こんなに小さい本だったっけ」と戸惑われたり、モノクロの絵本を見て、「昔はカラーの本でしたよね」と確認されたりと、記憶の中の絵本との違いを口にするお客さまも少なくありません。刊行当初から大きさや色は変わっていないのですが、その方の中で絵本の世界がいつの間にかその方独自の存在に置きかわっていたんだなと興味深く思います。

絵本は、時間も空間も飛び越えて今の私たちとつながってくれます。コメントにも「亡くなった祖母や親を思い出しました」「忘れていましたが、実家に帰省した際、本棚に見つけて当時の温かい気持ちがぶわっと蘇りました」などとあったように、大人になって絵本から離れていても、一瞬で記憶がよみがえり、そのときに戻れるのです。私たちにとってお客さまから「どんな絵本を選んだらいいですか?」と聞かれるのは日常茶飯事で、お客さまとお話ししながら絵本を贈りたい方に合った絵本を紹介しています。絵本を通して、私たちとお客さまがつながり、お客さまがさらにまた誰かとつながっていく……絵本が人と人とをつなげているのを日々実感しています。銀座の書店「ナルニア国」住人としてこれ以上の喜びはありません。(取材:2024年9月)

◆川辺さんおススメ

親とコミュニケーションを取りたくなる応援絵本

「旅の絵本」シリーズ(作:安野光雅、福音館書店)

文字がない、文字通り絵本です。この世界を楽しめるなら、年齢は問いません。克明繊細な筆致で風景や人物が描かれています。実はおとぎ話の主人公や有名な絵画が隠されており、それらを見つける楽しみも。さまざまな場面、自然や街並みを見ながら、会話するのもいいですね。

旅の舞台は世界各地だったのですが、東日本大震災後に刊行されたシリーズ8巻目で初めて日本のなつかしい風景が季節の移りかわりとともに描かれました。日本人の原風景のようで、その時代に生きていなくても、ちょっと昔の生活をのぞき見するようなおもしろさが味わえると思います。

『かえでの葉っぱ』(作:D・ムラースコヴァー、絵:出久根育、理論社)

森の国チェコスロバキアの作者による物語に、同じくチェコスロバキア在住の出久根育さんが絵をつけています。かえでの葉っぱが落ちて旅をしていく物語で、幻想的なチェコの風景が印象的です。美しい黄色だったかえでの葉は時間とともに色を失い、葉脈になって、残りわずかな命の中で最初に出会った少年のもとに帰ります。人生の時間を経た人が読むと、さらに味わい深いものとなると思います。

『いっぱいやさいさん』(文:まど・みちお、絵:斉藤恭久、至光社)

まど・みちおさんの言葉の選び方は唯一無二だと思います。トマトやニンジン、ナスなどのみずみずしい野菜たちが、今の自分であることをうれしいと歌うまどさんの詩を通して、「一人ひとり違っていてもそれでいいんだよ」と自分を自然に肯定できる。そしてこの本を読んでいる子どもの顔も優しくなっていくんです。

『からすのパンやさん』(作・絵:かこさとし、偕成社)

お話はシンプルで子どもが楽しめるのはもちろんですが、大人になって出会い直すと、視点が変わって、日々がんばっているお父さんやお母さんを応援してくれているようにも感じられると思います。「忙しいなかで、時間をつくって絵本を読んでくれた母に感謝している」というコメントがあったように、親と過ごした時間を宝物だったと振り返るよりどころにもなるのではないでしょうか。


●お話をお聞きしたのは
川辺陽子さん
株式会社 教文館 子どもの本のみせ ナルニア国 店長
川辺さんの想い出の1冊:小学3年生のときに図書館で借りて読んだ「ドリトル先生」シリーズ(作:ヒュー・ロフティング、岩波書店)

株式会社 教文館 子どもの本のみせ ナルニア国
東京都中央区銀座4-5-1

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