40歳を過ぎたらオヤノコト

公開日:

強引に連れて行かれたショートステイ先から救急搬送。そのときの母はすっかり別人のようになっていた(前編)

記事の発言・監修・ライター
坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

「オヤノコト」®相談室に寄せられた読者の体験談をご紹介しています。今回は前回の長岡京子さんと同じように、お母さまがさまざまな医療機関を転々とせざるを得なかったという大塚さんのお話を伺いました。

(後編はこちら)

母親の異変に慌ててしまい、とっさに毛布で押さえつけてしまった

東京都在住の大塚正一さん(仮名・61歳)が二人暮らしの母親の異変を感じるようになったのは今から5年ほど前のことでした。洗濯物が変なところにしまってあったり、テレビのリモコンがなくなったりすることがたびたび起きるようになったのです。認知症を疑った大塚さんは認知症専門をうたうクリニックに母親を連れていきましたが、医師からは薬を処方されただけで生活上の指導や助言をされることもありませんでした。

大塚さんは、母親に火を使わせるのは危ないので料理はさせないようにしたものの、掃除や洗濯、買い物などの家事は問題なくできていたので、日中はデイサービスを利用する程度で生活に大きな支障をきたすことなく過ごせていたのです。

ところが2年前、母親の状態が一気に悪化しました。

「毎日のように買い物に行っていたのに、まったく行こうとしなくなりました。やる気がなくなって何もしたくないと言ったり、下を向いて黙り込んでいたりするので、ウツっぽいなと危ぶんでいました」

それからしばらくすると、夜中に起き出して仏壇を拝むなど不穏な様子が見られるようになりました。大塚さんもそのたびに起こされるのでゆっくり眠ることもできません。仕事にも支障が出そうだったため、かかりつけ医に薬を増やしてもらいしのいでました。

半月ほど経ったある朝4時ころ、母親が突然大声で叫び出したのです。慌てた大塚さんは母親を押さえつけ、叫び声が近所に聞こえないように頭から毛布をかぶせてしまいました。1時間ほどすると落ち着きましたが、押さえつけたときにできたのか母親の目には青アザができていました。

母親にショートステイに行くということさえも、説明させてもらえず…母親と無理やり引き離された

朝かかりつけ医を受診するときに、ケアマネジャーにも経緯を伝えて同行してもらうことにしました。そして、「脳に異常があるのかもしれない。こんなことが続くと怖くて夜も寝られない」と訴えると、ケアマネジャーは母親をショートステイに預けることを提案しました。

病院での検査に問題はなく、そのまま母親はショートステイに直行することになりました。気になったのが、ケアマネジャーと一緒に来ていた地域包括支援センターの職員がコソコソ話をしていたこと。そして一刻も早く大塚さんから引き離さないといけない、というように急いで母親を連れて行ってしまったのです。まるで大塚さんが母親を虐待しているかのような強引さでした。

「母は認知症で、夜中にせん妄のような状態になって精神状態が不安定なのに、何の説明もなく施設に連れていかれたら、より混乱してしまうでしょう。耳も遠いので、私から母に説明させてくれと言っても『ダメ』の一点張り。ショートステイで預かってもらうことに反対しているわけではなく、ただ説明させてほしいと言っているだけなのに」。

ところがショートステイをはじめて2日後、施設から母親が嘔吐して、熱もあるので救急車を呼ぶと連絡がきたのです。大塚さんが救急病院に駆けつけると、別人のようになった母親の姿がありました。目は焦点も定まらず、口もきけない、歩くこともできません。

ところが病院からは、「熱もないし、検査でも異常が見つからないので帰ってください」と告げられます。変わり果てた母親を前にして、そんな状態ではとても自宅に連れ帰ることはできないと途方にくれてしまいました。病院に駆けつけたケアマネジャーはおろおろするばかりで役に立ちません。

「もう自宅に連れて帰るしかない」と覚悟を決め、介護タクシーを呼んだ大塚さんを見て、ケアマネジャーとショートステイ先の職員が慌てて転院先を探して、何とか入院できることになったのですが……。

(後編に続きます)

オヤノコトネット