40歳を過ぎたらオヤノコト

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「オヤノコト」第1回相続コラム「とある子なし夫婦の相続トラブル」_夫の急死後、遺産も経営していた飲食店も相続できずに、妻は賃貸住宅への住み替えを余儀なくされ・・・

記事の発言・監修・ライター
「オヤノコト」パートナー相談員 上級相続診断士 熊谷聡史(くまがい さとし)

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。大手保険会社で管理職を勤めた後、「相続で揉める家族を減らし、日本の家族のWell-Beingを支える」ことをミッションに上級相続診断士として独立。相続対策を中心とした資産運用の相談を得意とする。講演実績として鉄道東日本OB会や日本交通協会 等

最近では子どものいないご家族からの相続の相談が増えてきました。子どものいないご家庭のご主人は「自分に万が一のことがあっても、自分の資産は妻に残るだけだから、相続については考える必要がないから楽だ」というお考えの方が時おりいらっしゃいます。
ただし要注意です。
今回は、そのような子どものいないご家庭で起こった相続トラブル事例をご紹介します。

夫は「自分になにかあったら資産はすべて妻へ」と考えていたが・・・

ある夫婦、B子さん(63歳)と夫のA太郎さん(66歳)は、子どものいない生活を送っていました。A太郎さんは飲食店を経営し、B子さんもいっしょに仕事と家庭を支えてきました。夫婦仲は良好で、将来のことを考えると、A太郎さんはB子さんに資産全てを残すつもりでいました。

しかし、運命は思いもよらない展開を迎えました。A太郎さんが兼ねてから抱えていた心臓の持病が悪化、遺言書がない状態で急死されました。B子さんは夫の意志を尊重し、遺産としてお店や自宅を含む資産を相続するつもりでしたが、これが問題の始まりでした。

疎遠だった義弟が突然登場し「法定相続分」を主張したことで妻の老後は暗転した

A太郎さんには地方で暮す弟C助さん(64歳)がいました。
B子さんは義弟C助さんとは、40年以上前の自分の結婚式で一目会ったきり、すっかり疎遠になっていたのです。

当然A太郎さんは長くパートナーとして人生を共に歩んできたB子さんに全てを残すつもりでしたが、A太郎さんの自宅は、元々A太郎さんC助さんのお父様の土地の上に建てたものでもあったため、全てをB子さんが相続することにC助さんは納得がいかなかったのです。当然の「法定相続分」としてC助さんは、自身の権利として相続財産の1/4をB子さんに求めました。

民法上法定相続分は正当な主張となりますので、C助さんの主張は認められます。

ただし、B子さんに残された資産の大部分はお店とご自宅でした。
つまり、相続財産の1/4をC助さんに渡すためには、これまで長くA太郎さんと親しみ住んでいた自宅を売却して、現金を作る必要がありました。

生前A太郎さん望んでいた、長く連れ添ったB子さんに住み慣れた自宅を残すことが叶わず、B子さんはご主人の意思や夫婦の想い出、愛すべき場所を離れ、新たに賃貸住宅に住むことになりました。

トラブルの原因:なぜ揉め事にまで発展してしまったのか》

・本件では、A太郎さんがB子さんに残せると思っていた相続財産が、C助さんの法定相続分があることを認識していなかったことによります。(民法上、法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合の法定相続分は配偶者3/4、兄弟姉妹1/4となります)

・A太郎さんB子さんと弟C助さんが、日ごろから定期的に連絡を取り合ったりし、兄弟間付き合いがあれば問題とはならなかったかもしれません。

《解決策:本来A太郎さんがB子さんのためにしておくべきだったこと》

この出来事からは、遺言書の重要性、および将来の準備と家族間のコミュニケーションの重要性が示唆されます。

●遺言書の重要性

遺言書を作ることで「自身の財産を誰に残すのか」を指定することができます。
遺言があることで新たに「遺留分」という法律上認められている最低限の遺産取得分が一般的な相続ではあるのですが、こと法定相続人が「配偶者」と「兄弟姉妹」となる場合には、兄弟姉妹には遺留分はありません。
つまりは、「全ての資産を妻に相続する」と遺言を作成するだけで、相続財産の一部を兄弟姉妹に分け与える必要がなくなります。

●その他の対策例

・配偶者への居住用不動産贈与の特例の活用

「結婚してから20年経った夫婦間」で居住用不動産または取得資金の贈与があった場合、贈与税の課税価格から、基礎控除110万円のほかに2,000万円まで控除できるという特例制度です。このような制度を活用して、不動産の持ち分の一部を配偶者に予め移すことで、被相続人の資産総額を減らすことができます。

・生命保険の活用

生命保険の死亡保険金は非課税枠を「法定相続人×500万円」作れること以外に、ユニークな活用方法があります。生命保険の死亡保険金は、被相続人に帰属した財産ではなく、あくまでも保険契約に基づいて支払われる為、民法上は「受け取った人の固有の財産」となります。つまりは死亡保険金として家族に現金を作ることで、今回の事例のような兄弟姉妹に渡す法定相続分を圧縮できること、不動産売却せずとも兄弟姉妹に法定相続分として渡せる現金を予め用意することができます。

遺言書は、家族や愛する人々を守るための大切な手段。必ず、作成しておくべき

画像はイメージです

今回の事例のように、遺言書を作成することは、自分の意志を明確にし、家族や愛する人々を守るための重要な手段です。
特に子どものいない夫婦は、将来の不測の事態に備えて遺言書を作成することが、家族や財産の安定を確保するために不可欠です。

ただし、相続の裁判例のなかには、せっかく遺言を作成したものの、正しい遺言の要件が満たされていないために、遺言の効力が発生しない事例も散見されます。

確実に家族に想いと財産を残すためには、プロのアドバイスを聞きながら遺言を作ることが肝要です。
本記事を通じ、皆様のご家庭の相続がトラブルにならないように願っております。


本記事を読み、ご家庭の相続についてアドバイスがほしい方、聞きたいことがある方は、下記ページから「オヤノコト」パートナー相談員の熊谷(上級相続診断士)までお気軽にご連絡ください。

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