40歳を過ぎたらオヤノコト

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親のこれからを話し合い、親も子も満足できる道を選ぶ

記事の発言・監修・ライター
尚宏 大澤
「オヤノコト.マガジン」編集長大澤尚宏氏

バリアフリー・ライフを応援する生活情報誌「WE’LL(ウィル)」創刊。その後、高齢者社会にスポットを当てた「オヤノコト」をキーワードとしたフリーペーパー、メディアサイトの運営を行っている。

高齢化社会に突入した日本では、すでに働き盛りの40 ~50代の「介護離職」が年間10万人を超えているのをご存じでしょうか。介護や介護離職を取り巻く状況を話させていただく講演でも、参加者の大半が、スーツ姿の40~50代の男性であることも珍しくなくなりました。 私が皆さんに特に強くお伝えしているのは、 「親が元気なうちに、この先、誰と、どこで、どう暮らしたいのか? を話し合うこと」の大切さです。
なぜなら、親の加齢にともなって高まる様々なリスクを把握し、「備え」をしておくことで、介護離職のリスクを抑えられると思うからです。とはいえ日本では、高齢期の親とその子世代が、普段から先の暮らしについて、話し合うことはあまり多くありません。
弊社の調査でも、親と健康や介護のことについて「よく話す」という人は全体の1割にも満たず、「たまに話す」という人を加えても4割程度にとどまりました。日本人が、いかに親子で会話をしていないかがわかりました。ところで、個人主義的で自由なイメージのある国アメリカの親子はどうだと思いますか?
先日、カリフォルニアで3年間暮らし、帰国した40代の知人と再会しました。 彼は、「高齢だろうが、なかろうが、アメリカでは親のケアは最優先事項であり、『オヤノコト』と言われるまでもない」と話してくれました。
18歳で自立して家を出るのが一般的なアメリカの親子のあり方ではありますが、離れていても大切なのは「家族」。親から依頼があれば、最優先で対応することが、基本的に身についているのだそうです。
ほかにも、アメリカで生活したり、ビジネスをしている人などから、「親孝行とか、親のこと(オヤノコト)、などは日本人にしっくりくる言葉のように思いがちですが、アメリカ人の方が日本人より親のことを考えていると思いますよ」と言われたこともあります。
だからといって、日本人が親のことを考えていない、とか、親不孝だとは思いません。 しかし、親が歳をとると『老いては子に従え』という意識がわくのか、ある一定時期から子供が主導権を握ることが多くなる傾向があります。
そのため、親が「老人ホームに入居したい」などと言うと、強く反対する子世代もいます。 反対する理由はさまざまでしょうが、「親を老人ホームに入れた子供」という世間体を気にする人は多いようです。
これからは、親のこの先のことを考えるとき、ぜひ親の気持ち、入居したい理由に耳を傾けてみませんか。以前、湯河原にある介護付有料老人ホーム(入居時自立型)で、84歳の女性にお話をうかがいました。 女性は、老人ホームへの入居を息子さんに大反対されたそうです。 しかし「反対するなら、親子の縁を切る」とまで言って、入居されました。
この女性は、ホームのパンフレットで、「76歳で、フィジーでパラセーリングを体験し、その後、毎年海外旅行に行って人生を楽しんでいる」と紹介されていたので、さぞ、悠々自適な老後を送る方なのだろうと思っていました。
しかし実際お話を聞いてみると、まさに苦労の連続の人生を生きた方で、戦争中をたくましく生き、戦後、「手に職を付けて自立しなければ」と看護師の資格を取得。 早くに旦那さんを亡くしたので、女性一人で2人の子どもを育て上げたのでした。 元気なうちから入居を決めたのは、「老後は子どもに迷惑をかけずに生きたい」という想いが強かったため。 「親も子も、自立した生き方をするのがお互いのため。せっかく生を受けたからには、人生をまっとうしなくちゃ」と語られた言葉が印象的でした。 今は、息子さんご夫婦とはよい距離感を保ち、非常によい関係を築いています。
「親が、どこで、誰と、どう暮らしたいのか」を話し合うことは、働く世代の「介護離職」のリスク対策であることも確かですが、親と子が幸せな人生を生きるために不可欠なことだと感じた出来事でした。
子世代には、親が年を重ねるにつれ、「介護」「老人ホーム」「介護離職」といったことが身近に迫り、不安も募ることでしょう。 しかし不安を抱えているのは親も同じですし、親にも「こうしたい」という希望があります。だからこそ、親は親、子は子として、お互いを尊重し、よりよいコミュニケーションを取ることが、充実した生活を手に入れる近道なのだと思っています。
=本記事は、夕刊フジに連載しているものです。

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