40歳を過ぎたらオヤノコト

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「歯のケア」を当たり前の習慣に! 高齢の親&「オヤノコト」世代から始める「自分の歯を長く残す」ための秘訣とは?

記事の発言・監修・ライター
「オヤノコト」編集部
大野ルミコ(Rumiko Ono)

雑誌、Web広告などを中心に幅広く活動中。現在、80代の母親と同居するリアル「オヤノコト」世代。聴こえの衰えや唐突に前後する会話に母親の“年齢”を実感しつつも「まだまだ元気そうだし…」と、趣味である野球観戦やライブ遠征に備え、食べるための「歯」・元気で過ごすための「足」の健康維持に励む日々。

「虫歯で歯が痛い」「歯周病なのか、歯がグラグラしてきた」
そういう症状が出ない限り、歯科医院に行かないという人は少なくありません。
また、すでに「自分の歯があまり残っていない」という人もいるかもしれません。
でも歯の健康維持は、年齢や「今の」歯の状態に関係なく、始める・続けることが大事!自分の歯を長く残していくために――今からできることを考えていきませんか?

一生涯、自分の歯で食事を味わう…それが「いつまでも元気」な毎日につながる!

前回、歯科医院に行ったのはいつですか?

1989(平成元)年、当時の厚生省と日本医師会が「8020運動」を提唱して以降、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」と、さまざまな取り組みを展開しています。人間は20本以上の歯があれば、満足できる食生活を送れるといわれていますので、80歳まで20本以上の歯を残して、「ほぼ一生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わおう」ということですね。

でも日本では、40代になるくらいから虫歯や歯周病などにより自分の歯を失う人が増えはじめ、厚生労働省の調査によると、65歳~74歳で約6本、75歳~84歳では実に約11本の歯を失っているとの統計があります(平均/令和4年 歯科疾患実態調査より)。一本歯を失うと、その分他の歯に負担がかかり、次々と歯が悪くなっていく負の連鎖が起こることも少なくありません。「まだ全部が自分の歯」という方はその状態を長く保てるように、「既に何本か歯を失っている」という方は、その本数をこれ以上増やさないためにも、しっかりとケアをしていく必要があるのです。

虫歯や歯周病の放置が、命や「未来」の危機につながることも

虫歯や歯周病といった歯の不調は、とかく「命に関わるほどの病気ではない」と思われがちですが、虫歯や歯周病を放置したことでその原因菌が全身に回り、重篤な合併症を引き起こすといった事例は、決して珍しいものではありません。また痛みや、歯がグラグラするなどの理由でやわらかい食事ばかりを摂るようになると、口周りの筋肉が衰える、固い食べ物が噛めなくなる、上手く食事を飲み込めなくなるなどの「オーラルフレイル」の状態に陥り、その後の「健康的な生活」を妨げる要因ともなってしまいます。

■オーラルフレイルとは?

オーラルフレイルとは、口の機能が健常な状態(健口)と機能低下の間にある状態のことを指します。具体的には以下のような「軽微な衰え」が見られ、早めの診察・ケアをすることが重要となります。

オーラルフレイルがその後のフレイル、寝たきりにつながる恐れも…


■オーラルフレイルで見られる「軽微な衰え」とは?
・固いものが噛めない
・食事中、むせる・食べこぼす
・口が渇く、ニオイが気になる
・自分の歯が少なくなっている
・滑舌が悪い

こうした「軽微な衰え」を放置していると、将来のフレイルや要介護認定、死亡のリスクがたかまることがわかっています。高齢の親に上記のような様子が見られる場合には、かかりつけ歯科医などに相談し、適切な治療・日々の対策を取るようにしましょう。

■歯の本数が少ないと転倒リスクも高くなる!?

厚生労働省は2003 年、愛知県の65歳以上の健常者1,763名を対象にアンケートを行い、「過去1年の間に転倒はしていない」と答えた方を対象に、3年後の時点での過去1年の間の転倒と、残存歯数、入れ歯使用の有無との関係を分析。その結果、「歯が19本以下で入れ歯を使用していない高齢者は、歯が20本以上残っている人に比べ、転倒リスクが2.5倍も高くなる」とのデータを発表しています。

歯を失うと硬いもの、繊維質の多い食材を避けるようになり、たんぱく質やビタミンといった必要な栄養素が不足しがちに。それによって、自然と筋力やバランス能力が低下してしまうこと、そして「歯でモノを噛む」ということが少なくなることで、脳への刺激が少なくなり、バランス感覚や反射神経が衰えることも要因に挙げられています。

転倒により大腿骨を骨折したことで寝たきりになってしまった……そのような事例は多く報告されています。歯の健康維持を心がけることが、自身の健康寿命の延伸にも大きく関わってくることがわかりますね。

近年、歯の健康と認知症との関連も明らかになってきています!

千葉大学予防医学センターの近藤克則教授を主任研究者とする厚生労働省の研究班による調査では、愛知県の65歳以上の健常者、4千人を4年間にわたり調べたところ、「歯がほとんどないのに入れ歯にしていない人」「あまり噛めない人」「かかりつけ歯科医院のない人」は、その後、認知症が発症するリスクが高いという興味深い結果が出たそうです。特に、歯がほとんどないのに入れ歯をしていない人は、20本以上歯が残っている人に比べて、約2枚も認知症発症リスクが高いのだとか。

考えられる原因としては以下の2つが挙げられています。

1. 歯がぐらつく、歯がないことで噛む力が低下する

歯周病などで歯を失うと、噛む力が弱まり、食べられる食材に制限が出てくることも。それにより「バランスの良い食事」が難しくなり、栄養が偏りがちに。また、食材をしっかり「噛む」ことにより、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚という五感の情報が脳に送られ、脳が活性化することもわかっています。歯が弱くなり「噛むことができない」状態になるということはこうした刺激が送られる機会が少なくなるということ。それが認知機能の低下につながると考えられています。

歯を失う大きな要因となる「歯周病菌」や、虫歯や歯周病などで損傷した組織から放出される炎症性物質は、口腔内に留まることなく、血液によって全身へと運ばれていきます。それによって脳梗塞や、脳出血などの脳血管障害の発生や、アルツハイマー病の原因物質である「アミロイドβ」を増加させ、認知症発症リスクを高めるといわれています。

歯周病は「世界で最も蔓延している感染症」と言われ、日本でも30代でも3人に1人が進行した歯周病を有していると言われています(令和4年 歯科疾患実態調査)。だからこそ「予防する」こと、そして症状が出た時に「放置しない」「進行させない」ようにすることが大事なのです。

いつまでも健康な歯で過ごすためにやるべき5つのこと

ここまでご説明した通り、歯の健康維持は、認知症をはじめ、さまざまな疾患のリスクを低下させ、生活をより楽しく健康に過ごすために欠かせない条件であることがわかります。では実際にできる限り健康な歯を維持するためには何をすればよいのでしょうか。

そこで高齢の親、そして私たち「オヤノコト」世代が、この先習慣にしていくべき5つのポイントをご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。

歯のケアの基本は、やはり毎日の「歯磨き」です。歯みがき粉はフッ素入りのものを選択してください。フッ素は歯のエナメル質を強化し、虫歯菌を抑制する効果もあります。たまに「フッ素は体に有害である」という情報が流れていることがありますが、それはあくまでも大量に飲み込むなど過剰摂取をした場合の話であり、推奨される使用量を守れば、健康に悪影響を及ぼすことはほとんどありません。

やはり毎日の歯磨きが健康な口腔環境を保つ基本!


歯磨きは最低でも1日2回(朝食後と就寝前)行うことが推奨されています。歯ブラシは通常「かたい」「普通」「やわらかい」の3種類がありますが、高齢になると歯のエナメル質が減退し、歯が傷つきやすくなっていますので、「普通」もしくは「やわらかい」タイプを選ぶようにしましょう。またヘッドが小さいタイプのものを選ぶと、口が開けにくい、開口部が小さい方でも使いやすいのでお勧めです。

歯ブラシで毎日丁寧に磨いていても、歯と歯の間や歯ぐきの境目などはブラシが届かずに食べかすや歯垢が落としきれないことも。また高齢になると歯茎が下がり、歯と歯、歯ぐきの境目に隙間が開いているという方も少なくありません。そのため1日1回は歯間ブラシやデンタルフロスなどを利用して、歯ブラシで落とせない部分の汚れや食べ残しを落とすようにしましょう。

歯間ブラシやフロスを使って歯の間の汚れもしっかり除去しましょう


歯間ブラシやデンタルフロスを使うと、「歯と歯の間が広がってしまう」と、使うことをためらう方もいますが、これは歯の間に溜まっていた歯垢や汚れがしっかりと除去され、歯の炎症が改善されたから。歯ぐきが健康になってきた証拠でもあるので、心配する必要はありません。むしろ「フロスや歯間ブラシは使っていないけれど、最近歯と歯の隙間が広がってきた」という方が、歯周病が進んで歯ぐきが下がり始めている可能性があるので注意が必要です。早めに歯科医院を受診するようにしましょう。

3.3ヶ月に一度は歯科医院での定期健診&クリーニングを!

高齢の親、そして「オヤノコト」世代の場合、毎日しっかり歯を磨いている方でも、3カ月に一度は歯科医院でクリーニングを受けることが望ましいと言われています。歯の表面や隙間、歯周ポケットに付着した歯垢や歯石を除去するクリーニングは、まさに歯科衛生士や歯科医師など、歯の「プロ」だからこそできるもの。同時に口の中の状態もチェックしてもらえるため、口の中の異変にも早く気づけるというメリットもあります。

最低でも3カ月に一度のメンテナンスを「習慣」にしていくことが大切!


特に歯周病で治療した経験がある方は進行を遅らせるため、入れ歯などを利用している方は状態を確認し、適切な調整を受けるためにも、通常よりも頻度を上げ、1~2カ月ごとにクリーニングを受けるようにしましょう。

保険診療で歯のクリーニングを受けた場合、3割負担の方なら3~4,000円程度、1割負担の方なら1,000円~1,500円程度で受けることができます。「それを年に何度も受けるのは高い」と感じる人もいるかもしれませんが、歯を失い、義歯を入れるとなれば、10万円を超える治療費がかかることがほとんどです。インプラントを入れるとなれば、さらに治療期間・治療費の負担も大きくなります。それを回避するためにも、定期的に歯科医院でクリーニングを受けることを習慣にしていきましょう。

4.口の中の「乾燥」を防ぐようにしましょう

高齢になると、唾液の分泌量が減り、口腔内の保湿力が低下します。唾液には抗菌・殺菌作用や、賛成に傾いた口の中を中和する作業などさまざまな働きをしていることがわかっています。そのため唾液量が減ると、口腔内が酸性に傾き、細菌が繁殖しやすくなるため、虫歯や歯周病にかかりやすい環境になってしまいます。また口の中の潤いがなくなるため、スムーズに話せない・発音がしにくくなるといった不調も現れる場合があります。

口の中を潤すためにも、のどの渇きを感じていなくても、意識的に水分を取ることを心がけましょう。その時、コーヒーや緑茶などカフェインを多く含む飲み物を取りすぎると、利尿作用で余計に体が乾いてしまうので注意が必要です。また糖尿病などの病気がない場合は、飴やガムを食べることも唾液の分泌が促進されるのでオススメです。

5.たんぱく質多め&しっかり噛む食事で健康な口の維持を

歯や口の機能が衰えると、どうしてもやわらかく、口当たりの良い食事を選んでしまいがちですが、それが続くと一段と噛む力が弱くなり、余計に歯や歯ぐきの機能が低下する、噛む力が弱まる、食事中にむせる頻度が多くなるといった悪循環に陥ります。

バランスよい食事を「しっかり噛んで」食べることが大切!

それを防ぐためにも、できる範囲で「噛む力と噛む回数」を意識した食事を摂るように心がけましょう。例えば食材は少し大きめにして噛む回数を増やす、白米を雑穀米や玄米に変える、魚や肉などたんぱく質が豊富で噛み応えのある食材を取り入れるといった方法もオススメです。

ただし高齢になると飲み込む力も弱くなっているため、誤飲やつまりも起こりやすくなっていますので無理は禁物! また、加齢とともに、虫歯に関係なく歯ももろくなっていきますから、氷や硬いおせんべいをガリガリと食べるとあっけなく折れてしまう可能性も……入れ歯や虫歯の有無に関係なく、「オヤノコト」世代でも十分に起こり得ることですので、注意しましょう。

いかがでしょうか。

残念ながら虫歯や歯周病で失った歯は、二度と元に戻ることはありません。最初は「歯周病でグラグラし始めた歯を1本抜いた」だけの治療でも、その後、続けて2本、3本と歯を失うことになのか、1本だけの治療した状態を維持し続けることができるのかは、全てあなたの普段の心がけ次第で決まります。また、既に歯周病や虫歯で歯を失っていたとしても、放置せずきちんと治療をすることで、命に関わるような疾患や認知症、骨折といったリスクを軽減することもできます。

歯を何本も失ってから、もしくは大きな疾患やケガに見舞われてから「もう少し頻繁に歯医者に通っておけば良かった」「真剣にケアすれば良かった」と後悔することのないよう、できることから始めていきましょう!

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