40歳を過ぎたらオヤノコト

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第8回:相談者50代、対象者(母親)80代

「限界に近い」認知症の母親との無限ループの会話にストレスがたまっていく(第1話)

記事の発言・監修・ライター
「オヤノコト」編集部 
坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

岡村涼子さん(仮名・57)が「オヤノコト」相談室を訪れたのは、岡村さんが住む県内で一人暮らしをする認知症の母親(88)のために、会話AIロボットの導入について相談したいと考えたからでした。岡村さんには、母親にできるだけギリギリまで自宅で暮らしてほしいと考えていましたが、それにはある理由がありました。

父親を亡くし、認知症の母親が一人暮らしに

岡村涼子さんは半年前、父親(93)を自宅で看取ったばかりです。父親は1年前に自宅で転倒し、状態が悪化。ほとんど寝たきりになっていました。

「原因は母にありました。母が尿漏れパッドをトイレに詰まらせ、父が詰まりを取る器具(通水カップ)を取りに行こうとして転倒したのです。父は家が大好きだったので、訪問医や訪問看護を利用して最期まで自宅で看取れたことに悔いはないのですが、その間母の認知症が急激に進んでしまいました」

父親の死後、母親をなるべく一人にさせないよう、週5日のデイサービスに加えて、父親のときにお願いしていたヘルパーも引き続き利用していたら、要介護2の母の介護サービスの限度額を超えてしまっていました。自費扱いになり、請求金額が25万円にもなっていたのです。

驚いた岡村さんは事業所を変え、1カ所の事業所でデイサービス、訪問介護、ショートステイを組み合わせて利用できる「小規模多機能居宅介護(以下小多機)」というサービスを利用することにしました。というのも、これも岡村さんがずっと介護していた一人暮らしの伯父(97)が小多機を利用して、自宅での暮らしをギリギリまで続けることができたからです。ただ伯父の住んでいた地域では、いくつかの小多機の施設から伯父に合いそうな施設を選ぶことができましたが、母親の住む地域に小多機の施設は1カ所しかなく比較することさえできませんでした。それに小多機の施設を利用すると、それまで担当してくれていたケアマネジャーもその施設のケアマネジャーに替えないといけません。

「デイサービスも、ヘルパーさんも以前の方が母に合っていたように思います。しかも、デイサービスは人手不足のため週3回しか利用できないと言うんです。訪問介護も朝夕利用していますが、滞在時間は5分ほど。一人暮らしを続けるには不安が大きい。介護認定の区分変更をして要介護3になれば介護サービスを増やせるので、以前のデイサービスに戻りたいと考えているのですが、母は認知機能が低下しているとはいえ自力で歩けるので要介護3に認定されるか微妙なところです」

認知症の母親の言動にイライラ。同居はとても無理

岡村さんは、母親がデイサービスに行かない日は、車で1時間ほどかけて実家に行って母親の世話をし、行けない日は、実家の各部屋に置いたカメラで母親の様子を確認するようにしています。

「父の生前、母は2階で寝ていました。父の死後はそれまで父が寝ていた1階の居間で寝てもらうようにしたのですが、環境が変わって戸惑っているようです。認知症に環境の変化が悪いのはわかっていますが、2階への上り下りは危険なのでそうするしかありませんでした。エアコンの管理もできなくなっているので、スイッチを入れるのは訪問介護職員さんにお願いして、リモコンは母の手の届かないところに置いています。でもそのほかのテレビや電気のリモコン、電話もすべて“リモコン”だと認識しているのでどれを操作すればいいかがわからないんです」

夜にカメラを見ていると、テレビの消し方がわからなくてそのまま寝ようとしているので、見かねて電話で指示することもあると苦笑します。

「寝る前にカメラを見ると眠れなくなるので、なるべく見ないようにしているのですが……」

料理は岡村さんが作り置きして、「朝食」「夕食」などと書いて冷蔵庫に入れています。それを訪問介護職員さんに出してもらっているのですが、母親は不安なようで、「ごはんがないから買いに行かなくちゃ」と繰り返します。電話で「冷蔵庫を見てみて。あるでしょ」と言うと、その瞬間は納得するものの、冷蔵庫の扉を閉めたとたんに忘れてまた同じことを言うのです。

デイサービスには毎回料金を払わないといけないと思っているらしく、「デイのお金がないから、お金を下ろしに行かないと」と、これも何度となく繰り返しては、現金を毎回持って行こうとします。そのたびに「私がお金を下ろして、まとめて払っているから大丈夫」というやり取りが無限ループのように続くのです。

母親は岡村さんに感謝することもあると言いますが、普段は「何でも自分でできている」と思い込んでいるのがまた岡村さんをイライラさせる原因になっています。ついきつい言い方をしてしまうことも。すると母親は「早く私があの世に行けばいいんだ」とすねて、岡村さんの胸が痛むのです。

「でもそんなやり取りもすぐに忘れるのが認知症の良いところではあるのですが」

妄想も激しくなっています。「窓ガラスに男の人の顔が見える」「2階に若い男が上って寝ている」などと言って怖がることも多く、一人の夜は寂しくて心細いのだろうと想像しています。

「昔なら乗り越えられていたことも、認知症になると難しいのかもしれません」と母親を思いやりますが、それでも母親と同居することはとても考えられないと言います。

「今でも限界に近いので一緒に暮らすなんてとても無理です。同じことを何千回も繰り返されるのは本当にキツいです。耐えられないほど。夫にも同じ思いはさせられません」

(第2話につづきます)

みんなで考える「そろそろ親のこと、自分のこと・・・」

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