40歳を過ぎたらオヤノコト

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第6回:相談者50代、対象者(母親)80代

姉の死。逆縁の悲しみを乗り越えて、残された母のそばにいたい(第3話)

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記事の発言・監修・ライター
「オヤノコト」編集部 坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

佐野昇二さん(仮名・55)は、突然亡くなった姉の遺産を母に移管するため、奔走しています。時間をかけて母親の気持ちに寄り添い、手続きや契約などはすべて佐野さんが同行し対応していきました。税理士だけは、週末や夜でも対応できる人を選べたものの、姉の死から相続手続き、資産の運用相談まで、金融機関はもちろん、市役所や法務局での相談や手続きはすべて平日にやるしかありませんでした。

(第2話はこちら

使い果たした有給休暇。このままでは欠勤扱いに

「最初から母に代わって私が代行することはできません。はじめはどこも母を連れていかなければなりません。すべて、私が会社を休んで同行するしかありませんでした」

しかも、佐野さんは転職したばかり、有給は5日しかなかったうえ、姉の忌引き休暇も、土日も含めて3日と決められていたと嘆きます。

オンラインや電話でできることはやったものの、どうしても足を運ばないと進まない手続きがほとんど。佐野さんは有給休暇を使い果たし、欠勤という形で休みを取るしかありませんでした。「このままでは賞与に影響してしまうのでは」と、人事に聞いて初めて介護休暇や介護休業制度の存在を教えてもらったと言います。

2025年4月から施行された「改正育児・介護休業法」では、介護に直面した旨の申し出をした労働者に対して、事業主は介護休業制度等に関する周知を個別に行わなければならないと定めています。また、介護に直面する前の早い段階で、介護休業制度等について情報提供しなければなりません。

佐野さんの場合は母親の介護のための休暇ではないので、いずれにしても介護休暇は使えなかったにしても、早いうちに何らかの情報提供があってほしかったと思います。法律施行後、佐野さんの会社がどんな対応を取るかも気になるところです。

「そもそも就業規則も書面で見たことがありません。イントラネットに入っているのでしょうが、どこに入っているのかもわからないのも使いにくいですね。ともかく、欠勤扱いについて相談したところ、人事は『母を病院に連れて行くため』と記録すると言ってくれたので、一安心です」

介護をしている人は、まずは会社や上司に伝えておくのが第一歩ですね。

逆縁の悲しみ。母の心を癒したのは

母親のために奔走した佐野さん。実は、母親や姉が“アバウトな性格”なのを熟知していたので、将来のことを見越し、実家や病院からいずれも車で10分のところにマンションを買っていたそうです。その手回しの良さに感服しました。遠くに住んでいたら、とても1ケタの欠勤では済まないでしょう。

それでも、銀行や役所周りは大変だったと明かします。父親名義のままになっている土地や家、銀行口座が気になりつつも、これ以上欠勤するわけにはいかないため、まだ手が付けられない状態だと言います。

佐野さんは、これまでの経緯を淡々と語ってくれました。銀行の担当者とやり取りするうちに、母親がポジティブになっていったと聞いて少し安心したものの、長く二人で暮らしてきた娘に先立たれた高齢の母親の気持ちを思うと言葉がありません。実際、母親の落胆ぶりは想像以上だったと佐野さんは振り返ります。

「私と妻が母の話をとことん聞き、叔父にも母に電話をしてくれるようにお願いして、ようやく悲しみが癒えてきました。一番親身になってくださったのが、母のコーラスの仲間の皆さん。同じ地域に住む、同年代の友人が、母の気持ちに寄り添って、一緒に泣いてくれて、少しずつ元気を取り戻すことができたのです」

超高齢社会は、佐野さん母娘のような逆縁の悲劇も多く生み出しているのだと実感しました。

今は毎日母親に連絡し、週末は母親のところで食事をしているという佐野さん。今後、同居も考えていると言います。亡くなった姉の分まで、親孝行したいという気持ちは、母親にも十分すぎるくらい伝わっていると思いました。

みんなで考える「そろそろ親のこと、自分のこと・・・」

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