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「オヤノコト」のリアルを語る上で欠かせないのが、介護と仕事の両立です。特に遠距離介護の場合は、移動も含めて介護にかかる時間とお金は大きな壁となって子世代に立ちはだかります。神田文明さん(仮名・62)の父親は、愛知県で一人暮らしをしていました。90歳と高齢ながら、介護も必要なく自立して暮らしていた父親でしたが、あることをきっかけに施設への入居を真剣に考えるようになりました。
そのきっかけとは……。
神田文明さん(仮名・62)が、父親(90)の一人暮らしも潮時ではないかと、これからのことを真剣に考えるようになったのは、父親が屋根のリフォーム詐欺にひっかかったことがきっかけでした。
神田さんの父親は、妻(神田さんの母親)を20年以上前に亡くしてからは地元の愛知県で一人暮らし。持病はあるものの介護は必要なく、近所との関係も良好で、まさに“住み慣れた地域で自立して”暮らしていました。神田さんは一人息子、それまで帰省するのは年に数回程度でしたが、さすがにここ数年は毎週電話をして父親の様子を確認するようにしていたと言います。
父親が「実はこんなことがあって……」と屋根の修理をもちかける業者が来た話を打ち明けたのも、そんな電話のなかでした。
「お宅の屋根が壊れている。このままにしておくと大変なことになる。瓦の修理と漆喰を施した方がいいと業者に言われたので、お願いすることにした。ついては35万円かかると言うんです」
これは怪しいと直感した神田さんは、急遽帰省。父親に確認したところ、すでに契約書を交わしていました。
「ところが契約書には日付も入っていません。リフォーム詐欺だと確信し、地元の消費生活センターに相談しました」
センターからは、日付が入っていないものは契約書としては認められないので代金を払う必要はない。クーリングオフもできるとアドバイスもらいました。
神田さんが業者にクーリングオフを申し入れたところ、業者は「すでに材料を用意しているので、瓦の修理だけでもさせてほしい」と粘りました。ここで断って、今後高齢の父親がその業者から嫌がらせなどをされるとかえって困ることになるのではないかと不安がよぎったのです。
「業者と交渉したところ、値引きして15万円でどうかと言うので、それで手を打つことにしました。35万と言っていたときは、工事に1週間くらいかかると言っていたのが、大した儲けにならなかったためか数時間で帰って行ったらしいです」
今でこそ笑い話にして済ませることもできますが、父親はさぞかし意気消沈したのではないでしょうか。そう聞いたところ、そんな素振りはまったくなかったと神田さん。
「そもそも騙されたとも思っていません。数百万ならまだしも、35万ならそう大金とも言えませんし。といっても、年金暮らしでそれほど余裕もないので、私に借りればいいと思っていたようなのですが」
神田さんはそんな父親を叱っても仕方ないと気持ちを切り替えました。怒るより、前々から話には出ていた「父親の一人暮らしの辞めどき」について真剣に話し合う絶好の機会だと考えたのです。
「自宅も築40年を過ぎ、今さらリフォームするのももったいない。だったら、施設などへの住み替えをした方がいいのでは」と、提案しました。
父の抵抗を予想していた神田さんですが、意外にも父親は『そうだね』と、すんなり納得してくれました。
そこで、東京に呼び寄せるか、地元で探すか、どちらにするか父親に相談したところ、
父親は地元愛知を離れ、神田さんの住む東京に移ることは拒んだと言います。
なぜなら、
「母のお墓を建て、ずっとお参りに通い、手入れをしてきたので愛着があるのでしょう。墓じまいも考えないわけではありませんでしたが、自分が最後までお墓の面倒を見たいと言うので、その気持ちを尊重したいと思ったからです」
これで、愛知で施設を探すという方向性は決まりました。2023年末のことでした。
タイミングよく、神田さんが勤務する会社の社員向けに「オヤノコト」相談室が主催する講演会があり、早速施設選びについて相談することにしました。
(第2話に続きます)
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