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「また歩けるようになりたい」目標を持つことが喜びや意欲に(第3話)

記事の発言・監修・ライター
坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

父親を有料老人ホームにお願いして両親の距離を取ることを決めた若村恵子さん(仮名・58)。自分が介護できなくなったからだと自分を責めている母親にとって、自宅から近いところでいつでも会えることが大事だと考え、Eホームを選びました。ただ若村さんは、父親がEホームと合うかどうか見極めるために、次善策を用意していました。

(第2話はこちら

足や声、父親にうれしい変化が

若村さんは、Eホームとの入居契約を月契約にしました。まずは10月後半から11月いっぱいまで暮らしてみて、父親がこのホームに合うかどうか、ホームの対応がどうかを見極めようとすることにしました。最初からこの「お試し」入居を考えていたと言う若村さん。「オヤノコト」相談室に来られてから見学、入居まで約1か月というハイスピードでしたが、このように「もしも」を見据えていたから実現したのかもしれません。ただし、こうした月契約は一般的な入居契約よりは費用が多少高くつくのは注意しておいてほしいと思います。

若村さんからお話を伺ったのは、父親がホームに入居してまだ数日しか経っていないときでした。若村さんは毎日面会に行き、母親と二人で行くこともあります。父親は入浴も食事も満足している様子でした。母親はぽっかり穴が空いたようですが、文句を言ったり叱ったりしながらも、夜中に様子を見に階下に降りてきていたのがその必要がなくなり、ゆっくり眠れているようです。

「うれしかったのは、担当医が『足もむくんでいませんね』と言ってくださったこと。それまで父はほとんど動けなかったので、足がむくんでいたのです。これも食事のたびに居室のある階から5階の食堂まで歩行器で歩いているおかげだと思います。それから、ケアマネジャーが父にこれからの目標を聞いてくれたことは、父もうれしかったようです。『歩けるようになりたい』と答えていましたが、目標を持つことがこれほど本人の喜びや意欲につながるとは思いませんでした」

父親の声が出ていることにも驚いています。父親はもともと多弁ではなく、気持ちの通じる母といるのでなおさらしゃべらなくて済んだため、家にいる間はあまりしゃべらなかったのだそうです。ホームでは自分からしゃべり、コミュニケーションを取ることが必要だと感じたのかもしれません。「父はこれまで声がかすれていたのですが、ホームではほかの入居者の方が声をかけてくださって返事をするからでしょう。何より父が声を出しているのをうれしく思いました」

母親はこれまで培ってきたコミュニティで暮らす

両親に寄り添い、その老いを直視してきた若村さん。お話を聞きながら、こんな言葉が印象に残りました。

「両親の姿を見てきて、人の死や老いについて考えるようになりました。生は喜びそのものです。成長するにつれてできることが増えていくのに対して、老いはできることが減っていき、ゴールにあるのは死です。私は一人娘です。毎日朝と晩に電話で二人と会話し、見守り続けて30年。できる限り実家に通って、親に不調があればその都度対応してきました。何がベストかわからないなか、その時々で一番良いと思うことをやってきたから、ここまで二人暮らしを続けてこられたと思っています。それでも、もしかすると母が大変な思いをしなくて済む道がほかにあったのではないかとも思うのです」

どんな道を選んだとしても、後悔が皆無という子どもはいない――。私たちはこれまでたくさんの親子を見てきて、そう感じています。それでも、若村さんの揺れる思いにも深く共感します。親を思えばこその逡巡。正解はないのですから。

一人暮らしになった母親を、これからどう支えるかも若村さんにとっては課題です。それでも若村さんは、母親がこれまで培ってきたコミュニティの中で暮らし続けることを尊重しています。商店街で生きてきた母親の根っこはここにあります。

若村さんと両親との関係も同様です。若村さんが愛され、大切に育てられてきたという強い結びつきが今につながっているのだと感じました。若村さんの言葉の随所から、互いを大切に思っているのが伝わってきたし、その思いはホーム職員にも通じていると思います。若村さんとご両親がこれからどう暮らしていかれるのか、またご報告します。

みんなで考える「そろそろ親のこと、自分のこと・・・」

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