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「家族が深呼吸できる場所がホームです」営業担当の言葉が、私たち家族の心に響いた(第2話)

記事の発言・監修・ライター
坂口鈴香

20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆

若村恵子さん(仮名・58)の90代の父親の介護の負担が大きくなり、体力的に限界に近づいた母親のためにも、父親を有料老人ホームにお願いして両親の距離を取ろうと決めた若村さん。介護できなくなった自分を責める母親のためにも父親が安心して暮らせる有料老人ホームを探そうと、「オヤノコト」相談室を訪れました。

(第1話はこちら)

同一フロアで完結するホームの短所とは

若村恵子さんが、父親の有料老人ホームを選ぶ際に想定していた予算は、月額30万円前後。看護師や介護職員の配置が手厚いホームという条件で、「オヤノコト」相談室がご紹介したホームと、若村さん自身で探したホームもあわせて、両親が住む市と隣市のホームをいくつか見学してみました。

「見学した結果を両親に報告すると、母の言葉から実家に近いホームを望んでいることが伝わってきました。その方が母の罪悪感が少ないだろうと考え、同市内のホームに絞ることにしました」

そこで今度は市内のEホームとFホームを、両親と3人で見学。介護型ホーム(※)の場合、入居する本人が見学するのはあまり例のないことでしたが、父親は「自分のことだから」と積極的だったそうです。

Eホームに決めたのは、見学から3日後のことです。Fホームが満室だったこともありますが、何よりEホームが実家からバスで5つ先の停留所という近さだったのが大きかったと言います。いつでも父親に会いに行ける距離なら、一人暮らしになる母親にとっても心強いはずです。

またFホームは同一フロアで生活が完結するのに対して、Eホームは2階の居室から食事を摂るために5階の食堂まで移動しないといけません。これは一見、入居者にとってはデメリットのようにも感じますが、若村さんの受け取り方は違いました。父親の運動能力保持のためには毎日別フロアまで移動した方がよいだろうと考えたのです。同一フロアに生活のための機能がまとまっていることを売りにするホームもありますが、確かに介護度が重い方には楽でも、そうでない入居者にとっては行動範囲が狭まり、意欲や運動能力が落ちてしまう可能性もあります。

視点を変えると、デメリットとメリットが逆転することもあるのです。こんなこともありました。若村さんが見学した中には、自宅から使い慣れた家具を持ち込んでくださいというホームもあったそうですが、母親はそのことに拒否感を示したというのです。使い慣れた家具で安心して生活できるのはメリットだと思えますが、母親にとってはそうではありませんでした。

「無機質なモノも、使う人がいれば命が吹き込まれます。母から見ると父が使っていたモノがなくなると喪失感が大きく、より辛くなるというのです。父がホームに入居した今も、母は父の湯飲みにお茶を入れているほどですから、その気持ちを尊重してよかったと思います」

※介護型ホーム:介護付き有料老人ホームのうち、介護が必要になってから入居するのが「介護型」。ホームが提供する介護サービスを24時間利用することができます。

心に沁みた営業担当の言葉

また実際にホームを見学して、両親はこれまで有料老人ホームに対して持っていたイメージが変わったといいます。

「いわゆる“姥捨て山”のイメージだったのがまったく違って、目からウロコが落ちたようです」

百聞は一見に如かずとはこのこと。これで母親の罪悪感はかなり減ったのではないでしょうか。さらに案内してくれた営業担当の言葉も印象的でした。

「『家族が深呼吸できる場所がホームです』と言ってくださったんです。そして、『お母さん、これまで大変でしたね。お母さんがホッとできて、夜はぐっすり眠れる。お父さんに会いたくなったらいつでも会える、それがこのホームの使い方です。お父さんがホームでリハビリをすれば、また家に戻ることもできます』と。これまでがんばってきた母をねぎらってくださり、今後の希望も持てる言葉が、母と私の胸に沁みました」

ただ、これには後日談があります。

「ホームとの契約後、この営業担当と会うことはなくなりました。父がまた自宅に戻るのを母が期待していることを職員は知りません。ちょっと複雑な気持ちですね」

営業担当と、入居後父親や家族と対応する現場職員との認識のズレは気になりつつも、「ここで父が大切にしてもらえればそれでいい」と前向きに考えています。そして、それらを見極めるという意味もあるのか、若村さんは次善策を用意していました。

(第3話に続きます)

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