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「オヤノコト」®相談室には、親の終の棲家選びの相談が多く寄せられます。その一人、東京都在住の長岡京子さん(仮名・50歳)は、相談員も驚くほど鋭い視点と基準でお父さまが入居する有料老人ホームをチェックしていました。有料老人ホームへの入居を決断したのはなぜなのか。そして長岡さんがチェックしたポイントとは? お話を伺いました。
長岡さんの父親は83歳。長岡さんと弟が独立し、母親が他界してからは長く都内で一人暮らしをしていました。
「父は良く言えば自立した人です。一人で気ままに過ごすことが好きで、私たちきょうだいに干渉されることをあまり好みませんでした。特にここ数年は怒りっぽくなることもあったので、足が遠のいていました」
それでも長岡さんは、父親のマンションのカギを預かっていたので、父親の留守中に台所のゴミを片づけるなどはしていました。さらにコロナが明けたこの1年あまり、体の衰えも目立ちはじめていたのです。
「時々連絡がつかなくなることがありました。心配して父の家の近くの病院に片っ端から電話をかけると『当院に入院していらっしゃいます』と言われて消息がつかめたということが何度かありました。私が把握しただけでも2、3回は入院していたようです」
それでもこれまでは長岡さんや弟たちが手助けをしなくても、父親一人で入退院の手続きや支払いなどは自分で行いし、再び一人暮らしに戻ることができていたのですが、この7月、自宅マンションを出たところで転倒、骨折してしまったのです。長岡さんは、マンションの管理人から父が救急車で運ばれたことを知らされました。長岡さんは、何かあったときのために、管理人に自分の連絡先を伝えていたのです。「オヤノコト」世代は見習いたいところですね。
「父が入院したのは、急性期病院。緊急で重症度の高い患者を受け入れている病院なので、病状にもよりますがおおむね2週間で退院や転院をしなければなりません」
「病院の医療ソーシャルワーカー(※1)から、転院先として『地域包括ケア病棟(※2)』か『介護老人保健施設(老健)(※3)』、有料老人ホーム、または自宅に戻るという選択肢を示されましたが、歩けない状況では自宅に戻るのは難しい。老健は空くまでに時間がかかると言われたので、リハビリもできるという地域包括ケア病棟を選ばざるを得ませんでした」
ここで、いくつかの言葉の解説をしておきましょう。
医療ソーシャルワーカー(※1)とは、主に病院で、患者やその家族が抱える課題について、退院時期や活用できる社会資源、介護ができる条件などさまざまな状況を確認し、在宅復帰に向けた支援を行う専門職です。在宅復帰が難しい場合は、適切な転院先・施設などの紹介、転院の調整を行います。ある程度の規模の医療機関なら「地域連携室」などという名称の部署があり、そこに医療ソーシャルワーカーが在籍しています。退院後のことなど不安があれば相談してみてください。
長岡さんが医療ソーシャルワーカーから提示されたひとつに、地域包括ケア病棟(※2)があります。これは急性期病院での治療が終了した患者で、すぐに自宅や施設に移行するには不安がある、自宅での介護が難しいなどの患者に対して、在宅(または一部の介護施設)への復帰に向けて診療・看護・リハビリを行うことを目的とした病棟です。特に高齢者は入院をきっかけに自立能力が低下しやすいため、適切な治療を行うとともに生活環境を整えて再入院を防ぐ支援をしています。入院は最長60日となっています(2024年9月末現在)。
また、介護老人保健施設(老健)(※3)とは、病状が安定していて入院や治療の必要がない、要介護1以上の方が入所可能な施設です。医師が常駐し、看護師による24時間体制での管理のもとに介護や機能訓練、必要な医療、日常生活の援助が提供されています。在宅復帰を目標としているため、入所期間は原則3~6か月となっています。状況によっては入所期間が延長されることもありますし、特別養護老人ホーム(特養)の入所待ちとして利用する人もいます。
おそらく、老健の入所期間が影響して空きがないということになり、長岡さんは地域包括ケア病棟を選ぶことになったと思われます。
しかし、紹介された地域包括ケア病棟は、“リハビリがしっかりしている”とうたっているにもかかわらず、看板倒れだったと長岡さんは憤ります。
「1日2回リハビリがあると聞いていましたが、1回しかしてくれません。それもリハビリ室ではなく、病棟の回廊を歩いているだけ。医師は父の病状の説明もしてくれません。爪が伸び放題になっていたり、手足が垢じみてきたりと、身体ケアもあまりされていないのがわかりました」
長岡さんは急性期病院でも似たような対応をされていたことから、「まあ、こんなものだよね」と諦めの気持ちになっていったと言います。
「2か所の病院での苦い経験を通して、ホスピタリティを求めるなら、相応のお金を払わないといけないと学びました」
地域包括ケア病棟の「リハビリに力を入れている」といううたい文句で、長岡さんにリハビリテーション病院のような充実したリハビリを期待させたのは、ソーシャルワーカーや地域包括ケア病棟のミスリードだったのかもしれません。長岡さんが期待していたのは、自宅に戻って生活できるレベルまで回復を目指す機能訓練。ソーシャルワーカーが提示した「リハビリに力を入れている」という地域包括ケア病棟では、高齢者の身体状況を維持することを目指した医療ケアだったのです。それで身体ケアまでおざなりとなると、長岡さんの失望は無理もないこと。そこで、父親が地域包括ケア病棟に転院して半月にして、有料老人ホームを探そうと決意したのです。
「老健も考えましたが、いずれは自宅に戻らないといけないのは地域包括ケア病棟と同じです。父が入院している間、マンションの掃除に行くと排泄の失敗が多くなっていたのがわかったこともあり、もし自宅に戻っても私がケアできる自信はありませんでした」
「早くここから出たい」と言い、一人ベッド脇で歩行練習をしている父親には「次は“本物のリハビリ施設”に移るよ」と伝えました。
「『一人で歩行練習するのは危ないからダメ』と看護師さんには怒られましたが、父の自主練の成果で歩行状態は少し改善しました。自宅で気ままに暮らしたいというのが父の本心だとは感じています。それでも、一人暮らしのリスクを考えると自宅に戻せるとは思えません」
(後編に続きます)
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例えば、「離れて暮らしている高齢の親のことが心配」「親の住まいはどうする?」という問題を解決しようとすると、「自分の親に適したサービスは?」「お金の準備は?」「空き家になった実家はどうする?」と、次々に連動した新しいお悩みが出てくるもの。
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