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20年ほど前に親を呼び寄せ、母を看取った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて考えるように。施設やそこで暮らす親世代、認知症、高齢の親と子どもの関係、終末期に関するブックレビューなどを執筆 してきました。これまでに訪問した親世代の施設は100カ所以上、お話を聞いた方は数えきれません。今は「オヤノコト」が自分のコトになりつつあり、自分の変化も観察しているところ。
昨年から続くコロナ禍で高齢の親世代の暮らしや子世代との関係は大きく変わりました。「介護を理由に家族の関係が崩れてしまうことなく最期までその人らしく自然に過ごせる社会を目指す」をミッションに掲げているNPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さんに、このコロナ禍で親子関係にどんな問題が生じているか、そして子どもは親とどう向き合えばよいのか、お話を伺いました。
長く続くコロナ禍で、多くの親世代が新型コロナウイルスを恐れて家に閉じこもり、身体機能や精神状態が低下するリスクが高まっています。もはや自然災害ともいえる状況下では仕方ない部分もあるとはいえ、ご家族の心配も大きくなっています。そんななか、働く子世代はテレワークが可能になり、親の家で、親を見守りながら仕事をすることも可能になりました。ところが、心身の状態が低下した親の姿を見ながら仕事をすることになるために業務効率は落ち、さらには本来なら介護サービスが必要なのに子世代が親の介護を抱え込んでしまうという状況も起きています。
仕事と介護の両立という面から考えると、テレワークができる環境は望ましいことだと考えられているようです。ところが、これまで保つことができていた親子の距離感が維持できなくなり、いつの間にか介護を抱え込み、ひいては介護離職を引き起こすことにもつながっているのです。企業としても、社員が離職する理由がわからず戸惑っている……そんな相談が私たちのもとにも数多く寄せられています。テレワークや介護休業の延伸は、仕事と介護の両立においては逆にハードルを上げてしまっているということを認識し議論するべきときに来ていると私は感じています。
子世代が親の介護を抱え込んでしまうのがなぜ問題なのでしょうか。
プロなら、「ご飯はまだ?」と100回言われても冷静でいられますが、自分の親から「まだご飯を食べさせてもらっていない」と何度も繰り返されたら、私でも3回でキレると思います。排泄介助でも入浴介助でも、子どもが直接行うと感情的になって適切なケアはできません。家族だから抱く感情と適切なケアは必ずしも一致しないのです。
親は子どもになら頼ってもいいと思いがちです。すると何でもやってもらいたくなり、子どもに依存してしまう。子どもも親から頼られた喜びから親に依存することにもつながる。そして家族の関係性も壊れてしまいます。子世代が親の介護に達成感を持ったり、社会的に称賛されたりしたとしても、親にとっては決してプラスの環境ではありません。テレワークによって、こうした危険性が生じる可能性もあるのです。それどころか私が知る限りでは、テレワークで子世代が常に親の近くにいるようになり、双方が幸せになったケースは残念ながらひとつもありません。
コロナ禍で親に会えなくなったという声も数多く聞きます。が、私はあえて「これまでそれほど親と会っていましたか?」と問いたいです。制約があると、「会えない」ことばかりがクローズアップされますが、よくよく聞いてみると「コロナ前でも年に2回くらいしか会っていませんでした」という答えが返ってくることが少なくありません。
それでも、「なかなか会えなくて親の心身の状態変化にも気づけない」と心配なら、地域包括支援センターに連絡することをおすすめします。逆に、地域包括支援センターの窓口とコンタクトを取るいい機会だととらえてほしいです。テレワークと同様、親の様子を見るのは子どもの仕事だという思い込みを取り払いましょう。家族が直接行わなくても、地域包括支援センターを通した遠隔サポートという方法もあることを知っておいてほしいと思います。
連絡するのは電話でも結構です。何歳の親世代が何人で暮らしているのか、家の中のことを知っているのは家族しかいないので、地域包括支援センターも子世代から連絡をもらえるとありがたいのです。地域包括支援センターの職員を助けると思って、早目に連絡してほしいと思います。
お話してきたように、子どもが親を直接介護することは決して親のためにはなりません。仕事と介護を両立しようと思うのなら、何かあればすぐに第三者に相談するという心構えを持つことが大切です。特に、地域包括支援センターとは早いうちに関係づくりをしておきましょう。
今のうちに介護の準備をしておきたくなる気持ちもわかりますが、介護が必要になる原因は認知症だけではありません。脳卒中、骨折、内科的疾患などさまざまで、それによって家族が取るべきアクションは変わってきます。いくら事前に勉強しても、不安が大きくなるだけです。
準備するとしたら、親がこれから10年後どんな生活をしたいのか、何を大事にして暮らしたいのかを聞いておくことです。といっても、そんなことは考えたことがないという親がほとんどだと思います。だから、いきなり聞いても答えは出ないかもしれません。でも、この会話で親がこれからのことを考えるきっかけになればいいのです。さらに子どもが親と一緒に考える姿勢を見せれば、親と信頼関係をつくることができるでしょう。
ではたとえば、親ができる限り自宅で過ごしたいと言ったらどうするか。着目してほしいのは、なぜ自宅で過ごしたいと思うのかです。その理由を聞けば親が大切にしていることが明確になるはずです。それを家族で共有できると、今後親とかかわるときの大きなヒントになります。将来介護が必要になったときに親も子も楽になるでしょう。
いつかは、「在宅」か「施設」かで迷うときもあると思います。
決断するポイントは、親子が穏やかでいられるかどうか。お互いが近くにいることで関係が悪くなるようなら、施設や老人ホームも選択肢に入れてください。また穏やかでいられる距離感は日々変わります。施設やホーム入居がいつになるかは予測できるものではありません。そのためにも施設や老人ホームの情報収集は早目にしておきましょう。ただし、施設や老人ホームは魔法の箱ではないことも頭に入れておいてほしいと思います。
(取材:2021年8月)
NPO法人「となりのかいご」代表理事 川内 潤(かわうち・じゅん)さん
1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。ミッションは「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」こと。誰もが自然に家族の介護に向かうことができる社会の実現を目指し日々奮闘中。著書『もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法』(ポプラ社2018年)
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