40歳を過ぎたらオヤノコト

公開日:

vol.3 家族ときこえを繋ぐ補聴器の役割とは

記事の発言・監修・ライター
尚宏 大澤
「オヤノコト.マガジン」編集長大澤尚宏氏

バリアフリー・ライフを応援する生活情報誌「WE’LL(ウィル)」創刊。その後、高齢者社会にスポットを当てた「オヤノコト」をキーワードとしたフリーペーパー、メディアサイトの運営を行っている。

毎年1月に開催されている国際家電ショー(International CES)にて2017年、補聴器メーカーが初めて受賞しました。
家電のなかに医療機器である補聴器が選ばれたのですから、これからのIoT(モノがインターネットのように繋がる)時代は、そんな考え方も変えていかなければならないかもしれません。
機器やネット上のサービスとも繋がって、補聴器自体がIoT機器として扱えるということを考えていくと、先の未来はますます開けていくのではないでしょうか。

70代男性(Sさん)は現役の調律師で、市民ホールや町の小学校などのピアノの調律を請け負っています。
ところが、ある時期を境に仕事が出来なくなってしまいました。それは過剰に聞こえる耳鳴りとひどい眩暈に襲われてしまったからです。病院で精密検査を受けた結果、メニエール病と診断され、それからは通院と治療を繰り返す生活となりました。長い期間かけてようやく通常の生活に戻ることはできましたが、聴力が低下してしまったため医師からは補聴器の装用を促されました。
私どもが初めてお会いした時は、すでに調律師としての仕事から離れ、外出の機会も減ってしまっている状態でした。まずは、初めて補聴器を試すところから・・・音の聞き分けについて測定してみると、低音が聞き辛く、さらに音の強弱が分からない状況でした。
ここから、音に慣れていくための補聴器との向き合いがはじまりました。最初は少しずつ音を加えることから行うのですが、そのほんの少しの音を増幅しただけでもガンガンするような聞こえと感じてしまう程だったようです。今、振り返ってみると音に慣れるまでの期間は、さぞ苦しく辛い日々だったと思います。それでも音が聞こえてくるたびに少しずつ希望が見え、努力を惜しまず、前を見て取り組んでいただけたことが、お互いの信頼関係が出来上がる貴重な時間でした。

ある時、調律の仕事に復帰される転機が訪れました。 それはお孫さんのピアノの発表会があるということで、発表会で使用するピアノの調律をしてもらえないかと依頼を受けたのです。
調律師とは絶対音感という能力だけでなく、相対音感、倍音などの聞き分けができることが大切です。ピアノだけに限らず、楽器の構造を熟知し、演奏者に最高の音を奏でてもらいたい、人々に美しい音色を届け、みんなが幸せな気持ちになってもらいたいと嬉しそうにお話ししてくださいました。
自身の耳の聴こえを良くしたいと願う以上に、多くの方に素晴らしい音色を届けたいと願うその思いに心を打たれました。私も音を届ける仕事としてひとりでも多くの方に「音の素晴らしさ」を届け続けたいと思っています。

オヤノコトネット