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バリアフリー・ライフを応援する生活情報誌「WE’LL(ウィル)」創刊。その後、高齢者社会にスポットを当てた「オヤノコト」をキーワードとしたフリーペーパー、メディアサイトの運営を行っている。
私が依頼をいただく講演で多いのは「高齢期の暮らし方」というテーマです。皆さんには、老後を「どこで、誰と、どう暮らすのか?」を早めに家族で話し合い、準備しておくことの大切さを、ケーススタディなどを交えてお伝えしています。
ご存じの通り、日本人の三大疾病は、悪性新生物(がん)、脳血管疾患、心疾患で、患者数は60~70代での発症率が圧倒的に高くなっています。自宅でこれまでと同じように暮らすとしても、高齢になれば様々なリスクが急速に高まります。そうしたリスクを考えれば、親が元気なときから、様々なリスクを前提に家族で話し合い、万が一に備えることが後の介護生活や、自分自身の介護離職に備えることになります。
にもかかわらず、高齢の親をもつ40~50代のビジネスパーソンで具体的な備えをしている人はほとんどいません。現に、「親の老人ホームを真剣に考えたいのだけれど、誰に相談していいかわからない。その際はよろしく」と言われることもあり、親がひとり暮らしになり気がかりなことが増え、結果、老人ホームへの入居という選択肢を考える子世代が多くなってきていることをひしひしと感じます。他方で、老人ホームと聞くと「ウチの親は要介護認定を受けてもいないし、自分がいるのに入居させてしまったら後ろめたい、親も嫌がる」と思っている人も多いのではないでしょうか?
昨今の老人ホーム(介護付き有料老人ホーム)には、「介護型」だけではなく、「自立型」という、入居の際には自立(要介護状態ではない)が条件のものがあるのをご存じでしょうか。先の心配事を早めに解消し、親が安心して趣味などを楽しみながら、自分らしい暮らし方を享受できるタイプのホームです。
私は、こうした自立型老人ホームをいくつも訪問し、そこで暮らす親世代(70~80代)のお話を聞くことで「なるほどそうか!」という気づきを与えられています。先日お会いした80代のご夫婦は、以前は一軒家で暮らしていました。ところが、奥さんが膝を痛め毎日の食事を作るのが辛い状況に陥ってしまいました。そんな中でご主人は「お金さえあれば老後はなんとかなるものと思っていたが、歳を重ねるうちに『自宅で最期まで暮らし続けられるか?』と不安になり入居を決めた」と話してくださいました。そのご夫婦は、自然豊かなホームに入居し、自分達らしい時間の過ごし方や暮らし方に満足していらっしゃいました。
また別のホームに入居している80代の男性は、年齢を重ねるうちに『ぴんぴんコロリ』を考えるようになり、自立型老人ホームの入居を決めたそうです。「入居直後に食堂で異変を感じた時、近くにいた職員が気づいて病院に連れて行ってくれたんです。あれが自宅だったらと考えると、恐ろしく感じます」と早めの入居に安堵を覚えていました。
高齢期の不安は誰にでも多かれ少なかれあるものです。家庭内の事故や、病気もそうです。では、介護の問題は、どうでしょうか。読者の皆さんも、周囲の人の話から、「親の介護は他人事ではない」と少なからず感じているのではないでしょうか。だからこそ、早めに親の暮らし方を考えることは、ひとつのリスクヘッジなるのです。
親の住まいを考えるとき、「老人ホーム」や「サービス付き高齢者向け住宅」は避けて通れません。しかし施設に対して、どこかネガティブなイメージをもつ人は少なくありません。特に老人ホームという響きに、「一人で生活できなくなった老親をやむを得ず入れるところ」という後ろめたさを感じる人、また昨今の報道にあるように「老人虐待」「3K職場」「人手不足」という暗いイメージをもつ人もいます。しかし実際には、今回ご紹介したように、ホームに入ったことで、快適な暮らしや安心感を手に入れて、充実した日々を過ごしている高齢者もたくさんいるのです。
まずは介護について、また施設について知ることから始まります。何かあったときでは、気持ちのゆとりも時間のゆとりもありませんから、親が元気なうちから、老人ホームや高齢者向け住宅を見学に足を運んでみることをお勧めします。できれば親と話し合って、一緒に見て歩けるのが理想です。いくつも見て歩くなかで、充実した設備が整った、相性のよいホームと出会うことも考えられます。先手必勝。親も子も安心して過ごせる毎日のために、動きだしてみてはいかがでしょうか。
=本記事は、夕刊フジに連載しているものです。
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